2018-11-01-arsenal(C)Getty Images

やっぱりアーセナルの攻撃は美しい、でも…モダン化するエメリ・ガナーズはリヴァプールに立ち向かえるか

■やっぱりアーセナルの攻撃は美しい

「We've got our Arsenal back!」

俺たちのアーセナルが帰ってきたぞ――サポーターがそう歌いたくなる気持ちも分かる。やっぱりアーセナルには、綺麗なゴールがよく似合う。10月の代表ウィークを挟んだプレミアリーグの2試合、フラム戦(5-1)と、レスター戦(3-1)のゴールシーンはどれも見事だった。

とりわけ強く印象に残ったのが、アーロン・ラムジーがヒールキックで流し込んだフラム戦の3点目と、メスト・エジルの軽妙洒脱なワンタッチアシストからピエール=エメリク・オーバメヤンが決めたレスター戦の3点目だ。いずれも自陣から相手にボールを触らせることなくテンポよくボールをつなぎ、敵の守備を完璧に崩してフィニッシュまで持ち込んだ。複数人のテクニックとアイデアが結集した、実にアーセナルらしいゴールだった。

レスター戦で優雅に舞い、全得点に絡んで逆転勝利の立役者となったエジルは、試合後に「セクシーなフットボールを見せることができた」とコメントした。言葉の通り、アーセン・ヴェンゲル時代に確立された「攻撃的で美しいフットボール」というパブリックイメージ、いわゆる“ガナーズ・ウェイ”は今もチームに息づいている。

しかし、それだけでプレミアの頂点に立てないことは、ファンも、選手も良く知っている。そして、今季から指揮をとるウナイ・エメリ新監督も。もう「勝ち点よりガナーズらしさ」を追求するつもりはない。エメリはガナーズらしく、それでいて勝てるチームを作るべく、アーセナルのアップデートに取り組んでいる。だから「改革」という言葉を使うのはちょっと違和感がある。そのフレーズがしっくりくるのは、マウリツィオ・サッリの下でガラリとスタイルを変えたチェルシーの方だろう。

■自由すぎたヴェンゲルと、バランスを求めるエメリ

Unai Emery Arsenal 2018-19Getty Images

ヴェンゲルのチームは、良くも悪くも“自由すぎ”た。究極の理想主義者だった彼は、即興性が芸術を生み出し、それこそ至高だと信じていた。ただ、裏を返せばそれゆえの無秩序がチームを混乱にも陥れた。エメリは今、規律をもって理想と現実のバランスをコントロールしようとしている。たとえば、ショートパスにこだわりすぎず効果的にロングパスやカウンターも織り交ぜること。キチッとラインをそろえて全体をスピーディーに押し上げること。リヴァプールやトッテナムほど徹底的ではないが、ゲーゲンプレッシングや攻守の切り替えを意識すること。両サイドバックに高い位置を取らせ、ウイングが中に絞って「5レーン(※編注:縦に4本の線を引き、ピッチ上を5つのエリアに分けて考える概念)」の幅を持たせた攻撃をすること。これらは戦術面でのアップデートの一端だ。

そのために、ボールを使った練習ばかりだったヴェンゲル時代とはメニューも変わった。戦術理解を深めるオフ・ザ・ボールのセッションや、インテンシティ強化のスプリントが増え、よりディテールや強度にこだわったトレーニングが行われている。とりわけ、ヴェンゲルも実は数年前に取り入れようとして失敗に終わったハイプレッシング(アレクシス・サンチェスが1人でボールを追い回し、追随しない味方に不満をぶつけた悲劇の日々を覚えているだろうか?)は、エメリが練習時から細かく動きを指示することで、かなり形になってきている。

かくしてモダン化したチームは、ヴェンゲル時代よりもショートパスにこだわらなくなったゆえに、ボール支配率、パス本数、シュート数といった数値は下がったものの、代わりにプレッシングでも試合を優位に運べるようになって効率性が上がった。ここまでのリーグ戦10試合で、シュート本数(123本/1試合平均12.3本)に対するゴール率「19.5%」はリーグトップだ。得点数自体も「24」で、マンチェスター・シティに次ぎ、チェルシーと並ぶ2位タイ。特に左サイドとトップで共存できることを証明しながら高い決定力を見せているオーバメヤン(7得点)とアレクサンドル・ラカゼット(4得点)のコンビは、現地メディアで往年のドワイト・ヨーク&アンディ・コールの“ホットセット”(マンチェスター・ユナイテッド)と比較されるほどの充実ぶりだ。

また、エメリのアップデートは采配にも表れている。ヴェンゲルは早い時間帯に交代カードを切ることは滅多になく、特に中心選手(最近ではエジルやサンチェス)を替えることを嫌った。だが、エメリは戦況を好転させるためならハーフタイムで動くことも躊躇しないし、エジルだって平気でベンチに下げる。スタメンも流動的で、アレックス・イウォビやダニー・ウェルベックなど、起用に応えて活躍した選手には継続して出場機会が与えられ、それがまた彼らの士気を高揚させる好循環が生まれている。国内外のカップ戦を有効活用した健全な競争原理がチームの風通しを良くしているのも、好調の理由だ。

■好調の裏に「シュート撃たれすぎ」問題

Roberto Firmino Sadio Mane Mohamed Salah Liverpool West Ham Premier League 120818Getty

ただし、まだ肝心の守備がアップデートされていない。攻撃陣爆発の裏で失点は今季もかさんでいる。10試合で失点「13」はシティ(3)やリヴァプール(4)の倍以上で、1試合平均1.3失点はヴェンゲル政権のワーストだった昨季(1.34)とほぼ横ばいである。そもそも被シュート数が多く、1試合平均「14.1本」はリーグワースト6位で、実は最下位のハダーズフィールド(13.1本)を上回る。ヴェンゲルが率いた昨季(11.1本/リーグ6位)と比べても、シュートを撃たれる回数は増えている。ローラン・コシールニーやセアド・コラシナツ、ナチョ・モンレアルら故障者が多く出たとはいえ、主に個人のミスが被シュート、ひいては失点につながっているのは気になるところだ。

そんな中で、彼らは次節、リーグ最強の3トップをエミレーツ・スタジアムに迎えることになる。相手は、ここまで8勝2分0敗で、目下シティと首位を分け合うリヴァプールだ。ただでさえ今季は攻守の歯車がガッチリと噛み合っているユルゲン・クロップのチームは、加えてミッドウィークにカップ戦がなく、今週末は久々に中6日と十分な休養を取り、ベストな状態で臨んでくる。モハメド・サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノの3トップを、アーセナルの守備陣が抑えられるかと言えば、正直なところ分が悪い。

幸い、モンレアルとコラシナツが復帰間近で、どちらかが間に合えばグラニト・ジャカを左SBから解放してあげることができそうだ。前節クリスタル・パレス戦(2-2)でウィルフリード・ザハの突破を止められずPKを献上したジャカにDFはやはり重荷であり、彼がサラーと対峙することになれば悪夢になりかねない。

いずれにせよ、点は取れるが守れない、では「same old Arsenal(いつもと同じアーセナル)」のままだ。ヴェンゲル後の世界が光に満ちていることを証明したいなら、このリヴァプール戦や、12月2日のトッテナム戦、5日のマンチェスター・U戦も含めて大一番でも勝ち続けなければいけない。そうでなければ、破竹の11連勝を含む公式戦13戦連続無敗も「ただ対戦相手に恵まれただけ。やっぱり格上には勝てない」と揶揄されてすぐに忘れられてしまうだろう。

今まさに変わろうとしている新生ガナーズ。真のチャレンジはここからだ。

文=大谷 駿

▶プレミアリーグ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう

【DAZN関連記事】
DAZN(ダゾーン)を使うなら必ず知っておきたい9つのポイント
DAZN(ダゾーン)に登録・視聴する方法とは?加入・契約の仕方をまとめてみた
DAZNの番組表は?サッカーの放送予定やスケジュールを紹介
DAZNでJリーグの放送を視聴する5つのメリットとは?
野球、F1、バスケも楽しみたい!DAZN×他スポーツ視聴の“トリセツ”はこちら ※提携サイト:Sporting Newsへ

Goal-live-scores
広告