Jose Mourinho Manchester UnitedGetty Images

なぜマンチェスター・Uはチェルシーに完勝できたのか?光った指揮官の戦術眼/コラム

チェルシーを倒すために必要なことは何か?

スタンフォード・ブリッジに慣れ親しんだ“スペシャル・ワン”は、マンチェスター・ユナイテッドに勝利をもたらすためにすべきことが何かを理解していた。

答えは単純明快だった。10番をつけるエデン・アザールをゲームから追い出すことだ。そして、勝負の行方を左右するといっても過言ではない重要な役割を託したのが、アンデル・エレーラだった。

両者は3月に行われたFAカップでも対戦していた。チェルシーがユナイテッドを下し、次のラウンドへ進んだ試合だ。振り返ってみると、勝負の分かれ目となったのはエレーラが退場した場面だった。モウリーニョは新たな布陣を用いてブルースを追い詰めていた。プレミアリーグで首位を走るクラブは、元指揮官の術中にはまって混乱していたのだ。しかし、エレーラに不運な赤い紙が提示されたことで、試合の行方は決まってしまった。結局、ユナイテッドの勢いは一気になくなり、ヌゴロ・カンテの一発に沈むに至ってしまったのだ。

Eden Hazard ChelseaAnder Herrera Manchester United 31122016

聡明なる指揮官が次なる対戦でどのような布陣を選択をするのか、注目が集まっていた。その回答はここまで28ゴールを決めているズラタン・イブラヒモビッチをベンチに置き、マーカス・ラッシュフォードのスピードに懸けること、3バックで戦うこと、そしておそらく最も重要な決断だったのが、エレーラをアザールにマンマークでつかせることだった。

ユナイテッドの事情や今までの経緯を知らない人からすると、さも4位入りを諦めたかのような布陣に映ったかもしれない。だが、実際には考え抜かれた戦略、策略があった。そしてその考えをピッチに反映させるだけの能力と勇気を、モウリーニョは持ち合わせていたのだ。

結果として、エレーラはシーズンで最高のパフォーマンスを披露した。首位相手の完勝劇における立役者の一人となったのだった。

■エレーラに与えられた役割の意味

ユナイテッドはアザールを封じることで、ジエゴ・コスタにボールが渡る頻度を減らし、チェルシーの攻撃全体を機能不全に陥らせることに成功した。エレーラはアザールから数ヤード以上離れることはほとんどなく、デートするかのごとく付き添い続けた。本来、チームの停滞ムードを打破するのがエースの役目だが、エレーラの働きによってチェルシーは唯一の打開策を失っていたようだった。

チェルシーサイドにも問題はあった。この日、マルコス・アロンソを欠いていたこともあってアザールを満足にサポートできなかったのだ。ネマニャ・マティッチとカンテではボールの供給役として機能しないことは自明の理である。エースを封印されたチェルシーは、ユナイテッドの3バックをこじ開ける手段をほとんど見出すことはできなかった。

モウリーニョは分かっていたのだ。かつて率いていたチームが、どれだけアザールに依存しているか、ということを。だからこそ、エレーラを使ってゴールへの道筋を遮断する決断を下したのだ。彼は成功を信じていた。そして、プランは完璧に遂行された。しかもエレーラが攻撃面でも重要な働きを示す、というおまけ付きである。

1点目はエレーラのスルーパスがラッシュフォードに通ったところから始まったし、2点目は自らゴールを決めてみせた。

彼の魅力は安定感のあるプレーと貢献度の高さだ。派手さはないが、地味ながらチームに貢献する姿を見て“お気に入り”にしているファンも少なくない。しかし、この日の彼は十分に輝いていた。今までの試合でベストパフォーマンスを発揮していなかったのではないか、と感じるほどに。チェルシー戦を見て、サポーターたちはこのスペイン人MFに対する評価をもう一段階上げたことだろう。オールラウンダーとして機能し、かつてないほど大きな影響をチームに及ぼしているのだから。

狡猾なモウリーニョの采配と、完璧なエレーラの働きにより、プレミアリーグのタイトルレースは再び分からなくなった。チェルシーの強力な攻撃陣はすっかり影を潜め、トッテナムとの勝ち点差はわずかに「4」となった。しかも彼らは今週末、直接対決を控えている。もしスパーズがチェルシーを撃破するようなことがあれば……。劇的なクライマックスへ向けた流れは加速していくことになる。

モウリーニョはユナイテッドの指揮官に就任して以降、完璧な結果を残してきたわけではない。むしろベストとは程遠い状態……という表現のほうが、どちらかといえば近いと言えるほどだ。至上命題であるチャンピオンズリーグ出場権の獲得も確実とはいえない状況なのだから、そう評されても仕方のない面は否めないだろう。

しかし、少なくとも日曜日の試合でモウリーニョは、自分以上にチェルシーを熟知している者がいないことを証明した。そして戦略がうまく遂行されさえすれば、今なおプレミアリーグ屈指の戦術マスターであることも、しっかりと示したのであった。

文=クリス・ヴォークス/Kris Voakes

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