■シティを苦しめたゲーゲンプレッシング
昨季、公式戦4試合で合計18得点が乱れ飛んだゴールデンカードだったが、ふたを開けてみればスコアレスドローに終わった。リヴァプール、マンチェスター・シティ、両者ともにチャンピオンズリーグ(CL)とプレミアリーグを並走しながらのリーグ首位攻防戦ということもあってか思いのほか慎重になり、自慢の攻撃力が全面開放されなかった感はたしかにある。ただそれでも、どちらも決して守りの姿勢で試合に臨んだわけではなく、ハイレベルかつテンションの高いプレーの応酬と、高度な駆け引きの連続が見られた濃密な90分間だったと言っていいのではないだろうか。
ユルゲン・クロップがリヴァプールの監督に就任したのが2015年10月8日。つまり、この天王山はアンフィールドに来てからちょうど3年目の最終日だった。その集大成を示すかのように、クロップ率いる赤い軍団は、前半からゲーゲンプレッシングを存分に発動した。いつもの4-3-3の「3-3」が非常にバランスよくスムーズにポジションチェンジしながら、ジョン・ストーンズ、フェルナンジーニョ、ダビド・シルバといったシティのビルドアップチームに対して誰かが必ず素早いアタックをかけ、ボールを奪うシーンが目立った。
また両SBのジョー・ゴメス、アンドリュー・ロバートソンも高い位置を取り、中盤3センターと並んだ5枚でミドルゾーンを制圧。シティの中盤を苦しめ、主導権を握った。だが、4分にモハメド・サラーが左足を振り抜いたファーストシュートや、7分にサディオ・マネが左サイドをぶち抜いたシーンなど好機を生かせず、さらに29分にはジェイムズ・ミルナーが負傷交代を強いられるアクシデントもあり、リードを奪うには至らなかった。
■カギとなった両チームのSB

クロップのチームを苦手とするペップ・グアルディオラだが、黙って終わるわけではなかった。後半、徐々にD・シルバ、ベルナルド・シウヴァのインサイドハーフ陣が自ら飛び出したり、スルーパスを狙ったりと、リヴァプールSBの裏のスペースを意図的に使えるようになってくる。60分には、D・シルバのパスに対して右からナナメに走りこんだリヤド・マフレズが惜しいシュートを放ち、75分にはB・シウヴァが左サイドの深いエリアに飛び出して折り返し、これまたマフレズが際どいシュートを狙った。
このゲームの肝になったのは、両チームのSBであった。昨季CL準々決勝の2試合で、ペップ・シティはSBが上がった裏を快速サラーにうまく突かれて敗れている。その教訓があったからか、この試合のシティは過去に例がないほど両SBのバンジャマン・メンディ、カイル・ウォーカーの位置取りが低かった。それは必ずしも相手の圧力で後ろに貼り付けられていたわけではなく、「同じ轍は踏まない」という指揮官の意思の表れだろう。逆に攻撃面で言うと、昨季は左に置いたレロイ・サネをリヴァプールの俊英トレント・アレクサンダー=アーノルドに完封されて攻め手を欠いたが、今季はラヒーム・スターリングを左に回してメンディのオーバーラップを促進。逆サイドのウォーカーがビルドアップに加わる“左高右低”を試しており、この試合もその形を踏襲した。だが、両SBは攻撃のタスクよりもサラーとマネに好き放題させないことを優先していた。
一方で、クロップも今季CBで起用していたゴメスを右にスライドさせ、中央にはデヤン・ロヴレンを使い4バックに変化を加えた。ゴメスはよくスターリングを抑えていたが、一方でアレクサンダー=アーノルドがしばしば見せる高速クロスや、サラーへの縦スルーパスがなくなって攻撃の迫力が落ちたのも事実。両軍ともに“あちらが立てばこちらが立たず”の中でチョイスをした結果が、スコアレスドローだったように思える。これだけ見ても、ペップとクロップの間には高度な心理戦があったとわかる。
■頂上決戦は“ベストではないが悪くない”
(C)Getty Imagesそして、終盤に試合をテンポアップさせたのもまた、指揮官の決断だった。ペップは、やはりアンフィールドと相性が悪かったセルヒオ・アグエロ(キャリアで未だ無得点)を66分に、古巣相手に精彩を欠いたスターリングを76分に下げ、ガブリエウ・ジェズスとサネを投入。そして、そのサネが大きな仕事をやってのけた。85分、左サイドで突破を図ってヴィルヒル・ファン・ダイクのファウルを誘発し、PKを獲得。ところが、これをマフレズが枠外に飛ばしてしまい、シティは千載一遇のチャンスを逃した。
もしPKが決まっていれば、スコアだけでなく戦術的な観点で見ても、ペップの完全勝利だった。ハーフタイムを挟んで、ポゼッションよりも敵陣で「ギャップを探して突く」ことをより徹底させた微調整、さらにこう着状態を打ち破るための交代カードと、フレキシブルなところを示したのはクロップよりもペップの方だった。ただ、PKキッカーの選択については、基本的に「選手たちに任せている」というペップ流が裏目に出た。キッカーの座を譲らずジェズスを怒らせていたマフレズは、前所属のレスターでも過去8本のうち5つを外している。
何はともあれリヴァプールは命拾いをしたわけだが、クロップも試合後に「スタートは良かったがそのレベルを維持できなかった」と認めた後半の劣勢を考えれば、ひとまず前年王者相手のドローと無敗キープをポジティブに受け取るべきだろう。対するペップもまた内容と結果に「不満はない」とコメントし、「相手のフロントスリーのカウンターをコントロールできた」「非常にスペシャルなアンフィールドで失点せず、チャンスを作って自分たちらしさも出せた」と一定の満足を語っている。
にらみ合いの様相を呈した注目の一戦は、両者にとって“ベストではないが悪くない”結果に落ち着いたと言えるだろう。
文=大谷 駿
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