今年4月に行われたチャンピオンズリーグ準々決勝ファーストレグ。ヒディンク監督(当時)に率いられたチェルシーは、アンフィールドでリヴァプールに3-1と勝利。準決勝進出に大きく近づいた。そのシーズン、プレミアリーグではリヴァプールに2連敗していたチェルシーが、アウェーでどのように相手を封じたのか、試合後にはさまざまな分析が試みられた。
ほとんどの専門家が同じ原因を指摘した。まず、セットプレーでのリヴァプール・ディフェンスのマークの甘さ。ただ、セットプレーでの守りは、彼らにとってシーズンを通した課題で、1試合に1、2点はそのせいで失点していたから、この試合に限ったことではなかった。
2つめの要因とされたのが、エッシェンとジェラードの勝負。あらゆる面でワールドクラスの2人は、試合の流れを変える力も、チームのリズムをつくる力も持っている。この一戦ではエッシェンに軍配が上がったが、その結果、ベニテス監督やリヴァプールは危機感を募らせることになった。
それまでトーレスをサポートする下がり目のフォワードとして、評価を高めていたジェラード。2人の連係も抜群で、調子が良いときは誰にも止められない。互いの動きを読み、視野の広さや能力の高さを兼ね備え、決定的なパスも出せれば、フィニッシュの精度も持っている。
ところが4月のアンフィールドでは、エッシェンがジェラードを完璧に抑え、60分過ぎにはチェルシーが準決勝進出に近づいていた。エッシェンに封じられたジェラードはゴールに向かってプレーする機会もほとんどなく、ボールを失わないよう、どんどん下がっていくだけ。トーレスとジェラードのホットラインが断絶された結果、リヴァプールは1-3で敗れた。
ジェラード擁護派は、あの日のエッシェンは特別で、あれだけ完璧な仕事をできる選手はほとんどいないと主張した。確かにその意見はもっともで、現にそのシーズン、ボルトンのムアンバやエヴァートンのフィル・ネビルはエッシェンと同じことにトライしていたが、いずれも失敗していた。ジェラードはそれくらい手に余る選手なのだ。
しかし、プレミアでもチャンピオンズリーグでも頂点を目指しているクラブにとって、大事な試合でチームのナンバーワンプレーヤーであるキャプテンがまったく機能しないというのは致命的だ。
迎えた今月4日。今度はスタンフォード・ブリッジで、歴史は繰り返された。序盤こそ、何度もボールを触っていたジェラードだが、段々と目立たなくなり、パフォーマンスも明らかに低下。キャプテンの前に立ちはだかったのは、やはりエッシェンだった。ジェラードにピッタリ張りつき、驚異的な身体能力を生かしてスペースを埋めたかと思えば、ボールを受けて前線にも出ていた。
リヴァプールの中盤がジェラードをサポートできていないという指摘もある。シャビ・アロンソの退団によって、中盤の質もプレーのバリエーションも大きく低下。ジェラードとの意志の疎通という面でも、今のところルーカスもマスチェラーノもシャビ・アロンソには遠く及ばない。
それでも、リヴァプールには少なくともオプションがある。リエラ、ベナユン、カイトの3人には、ジェラードをサポートできる力があるし、コンスタントではないにしても、ある程度はゴールやアシストに貢献できる。攻撃はトーレスとジェラード頼みというわけでもない。
それを考えると、ジェラードを本来のセントラル・ミッドフィールドに戻して、マスチェラーノと組ませたとしても、攻撃力が下がるとは限らない。まだデビューはできていないものの、新戦力のアクイラーニがボールを持てて、遠目からのシュートもうまい攻撃の意識を持った選手だということからも、リヴァプールの中盤はそのうち完璧なバランスを見つけられる可能性が高い。
ジェラード自身、自分はセントラル・ミッドフィールドの選手だと語っている。自伝のなかでもイングランド代表でエリクソン監督にフォワードのクラウチのサポート役をやってほしいと頼まれたとき、「(自分が)背番号9だなんて、落ち込んだよ」と振り返っている。
リヴァプールではひとまず本音を封印して、チームのために役目をこなしているジェラードだが、一番好きなポジションでやりたいという気持ちはあるはずだ。スタンフォード・ブリッジでの手痛い敗戦を機に、ベニテス監督はキャプテンをセントラル・ミッドフィールドに戻したほうが賢明ではないだろうか?
ニール・ジョーンズ Goal.com.UK