コンフェデレーションズカップ(6月14日-28日)の取材で、南アフリカへ出発する前、僕にはひとつの疑念があった。それは、南アフリカで本当にコンフェデレーションズカップが、いやワールドカップが開催できるのか、ということだ。
治安問題はもちろん、不足する交通機関、スタジアム建設の遅れ、インフラ整備は大丈夫なのか。新聞、雑誌、インターネット、あらゆる媒体を眺めても、入ってくる情報はマイナスなものばかり。開幕が迫るにつれ、疑念は限りなく膨らんでいた。
しかし、大会が終了し帰国したいま、その疑念は消えてなくなった。コンフェデ杯は無事に閉幕し、2010年のワールドカップは間違いなく南アフリカで行なわれるのだ。
「スタジアムをはじめ、地元の人々のホスピタリティや温かい受け入れ態勢は本当に素晴らしかった。ただ、交通および宿泊という面では大きな課題を残したのも事実」
来年の本番に向け、更なる交通網の整備や宿泊施設の確保といった課題は残ったものの、FIFAのブラッター会長もコンフェデ杯の成功を満足げにアピール。夏の2週間で、南アフリカは、いぶかしそうな目が多かった周囲の心配をよそにW杯開催能力を示したのだ。
もちろん、危惧された事件がまったく起きなかったわけではない。ブラジルやエジプトチームが宿泊施設で金品の盗難に遭ったほか、開催地のひとつ、エリスパークの周囲ではテレビクルーが強盗に遭い、地元南アフリカの記者がスタジアムまでの道すがらプレスパス(記者ID)を強奪されるという事件は起きた。ただ、いずれも命にかかわるような“重大事件”には発展しなかった。
残念ながら、1人の死者が出てしまった。しかし、それは交通事故によるもので、南アフリカの開催能力を疑うものではない。亡くなった方は、不運にもドイツから取材に訪れていたテレビ局のスタッフで、ブルームフォンテーンでの準決勝終了後、ヨハネスブルクに自ら運転する車で向かう途中に事故に遭ってしまったという(南アフリカの道路は暗い。それだけにより一層の注意は必要になる)。
南アフリカの犯罪件数は、確かに世界でも有数だ。しかし、大会期間中は組織委員会と地元警察の努力もあって、イベントに影響を与えるような事件は皆無だった。
大会序盤は、スタジアムに空席が目立ったことも指摘された。南アフリカでは、黒人(カラード/混血を含む)と白人との間での収入格差(約4倍から5倍の開きがある)がひとつの問題となっており、空席の原因はチケットの価格帯にあったようだ(南アフリカの平均月収は日本円にして約4万5000円といわれ、最低価格《70ランド≒840円》のチケットですら通常のリーグ戦の3倍以上の価格で、最も高い席にいたっては700ランド≒8400円もした)。最終的には4つの会場での平均入場者が3万5000人を超えるなど帳尻を合わせたが、それも無料チケットを配布するなどした臨時対応の結果で、根本的な解決には至らず。人口の約80%を占める黒人の多くにとって「チケット代は高くて手が出ない」のが本音なのだ。
治安問題は一朝一夕に片付く問題ではないし、宿泊施設をはじめ交通網の更なる整備、スタジアム建設は急務である。そして、W杯が一部の富裕層だけのものになってしまうという可能性も否定はできない(空席が目立てば、大会の盛り上がりにも影響する)。
それでも、健闘が光ったバファナ・バファナ(南アフリカ代表の愛称)同様、南アフリカの人々は手厚いホスピタリティ精神を持って、ファンやメディアを受け入れ、コンフェデ杯は期待以上の成果で終えた。5000人を募集したボランティアスタッフには4万を超える応募があったといい、スタジアム、ホテル、レストラン、タクシーとあらゆる場面で接した地元の人々は親切で丁寧で優しく一生懸命だった。
細かい問題に目を向ければ、きりがない。コンフェデ杯とW杯の規模が違うのもわかる。しかし、来年の本大会は南アフリカで開催されるし、南アフリカはそれができると証明した。それがコンフェデ杯を終えて出た結論なのだ。
文・栗原正夫