バルサは2度蘇った…現地記者が振り返る“あの日カンプ・ノウで起きたこと”/コラム

バルセロナがパリ・サンジェルマン戦で起こした逆転劇は、人々を熱狂させた。現地で記者を務めるジェラルド氏が歴史的な一日を、カンプ・ノウで起きた摩訶不思議な出来事を、ありのままに振り返る。

バルセロナでは試合終了の時刻が近付くにつれ、実はそれ程、不可能なことではないのではないのかもという感覚が高まっていった。不思議な雰囲気が流れる。レアル・マドリーがよくやる、英雄譚的逆転劇の精がAVEや飛行機でやって来て、カンプ・ノウにしばらく居ついたような感じだ。情熱と常識(“seny”とカタルーニャ語で言われる)の正確な混合比で味をつけられ、トロ火で仕上げられた逆転劇だった。それは数日前に始まり、徐々にムードが高まっていき、これまで何度も無名の選手扱いを受けてきた、ユースチーム出身のセルジ・ロベルトが人生最高のゴールを挙げた時にクライマックスを迎えた。

ここ数年、バルセロニスモ(バルサ関係者、ファンの総称)は勝ち組のサポーター世代を作り出してきた。成功と上質なサッカーの泡に包まれた“永遠の時間”に守られ、一度も勝利への飢えを経験していないことにも楽観的な人々。受難の悲観論者であった“ビンテージ”のバルセロニスモとは何の関連もない。しかし、21世紀のクレ(バルサファン)である、この勝利に慣れた世代にもパリ・サンジェルマン戦のような伝説的な逆転劇は欠けていた。栄光はあったが、語り継ぐ逸話がなく、復活するために1度、死ぬ必要もなかった。

だがこの日の95分間、1度ではなく、2度バルサは蘇った。最初は努力と辛抱でスコアを3-0にした。2度目はカバーニのゴールを覆す7分間の忘れがたい時間だ。この7分間。スタンドにいた9万6000人のファン全員がチームの応援に声を枯らし、ピッチにいる11人を力づけようと一体になっていた。選手たちもすでにサッカーをプレーしているのではなく、ある種不可思議な激情の中、敵を押し込み、叫び合っていた。こんな事象はサッカーを人生の本質として生きている者だけに理解できることだ。

■歴史の体感とある儀式

PSGがゴールを挙げ、3-1になった時にスタジアムを後にした人々もいたが、彼らはおそらく一生、逃亡者となった自分自身を許せないだろう。バルサに復活の兆候が見え始めると、走って戻ろうとしたファンもいたとはいえ、その汚名はずっと消えないはずだ。降伏し、残念な形で投降した。カンプ・ノウでまさに奇跡が起こる寸前で、自発的に歴史的瞬間から遠ざかったのだ。

この7分間には何か、スピリチュアルでエキゾチックなものがあった。2度目の復活は最初のものよりずっと大きな功績だ。バルサのサポーターたちは、スタジアムに来た甲斐があったと思い始めた。そう、考えられないこと、忘れられないことが起きようとしていた。何年か経った後、彼らは2017年3月8日のこの試合を懐かしく思い出しながら、自分自身を振り返ってみることができるだろう。カンプ・ノウの最上階に固まっていたPSGのファンたちは爪を噛み、天を仰ぐ。顔をマフラーで覆い隠した。理屈ではなく、当然の帰結でもなく、超自然現象に通じる経験がこの世にあることがわからず、答えを探すばかりだった。

S・ロベルトがゴールを挙げ、ファンは喜びに爆発した。今日ではスポーツだけが、これだけ多くの人々にこんなにも大きな幸福感を与えることができる。プレス席の記者たちも書くことを忘れた。叫んで飛び跳ね、互いに抱き合った。その隅ではフランスから来たレポーターたちが頭を抱え、徐々に落ち込んでいく。何百万ドルもの資産を持ちながら、クラブ史的には大きな栄誉にあまり縁がないチームの理解不能な崩壊ぶりを説明することは、彼らにもできなかった。

喜びによる集団狂乱状態はカンプ・ノウのスタンドを駆け回った。生涯バルサ一筋のサポーター、観光客、フリの客、ソシオ(協賛会員)、もしくは単なるファン。若者、年配者、ウルトラ、中庸的な者。誰もが熱狂に身を任せた。彼らにはこのような瞬間が人生で1度しかないことがわかっていたのだ。数秒間、人々は携帯電話を忘れ、その場を生きることに集中した。今は写真を撮る時でもメッセージを送る時でもない。誰であれ、隣の席にいる人と抱き合う時間だった。

試合は終わり、もう一つの儀式が始まった。公約をした者はそれを完遂しなければならない。自分自身に背くことほど、悪いことはないからだ。

元バルサの会長、ジョアン・ガスパール氏は友人と共にバルセロナのビーチで海に飛び込んだ。頭を剃り上げた者もいれば、バルサが優勝を祝う、市内中心部にあるカナレタスの噴水に行った者もいる。モンセラート山への巡礼を準備し始めた人々も少なくない。「逆転突破が叶ったら、モンセラートに登ると約束をした全ての人が同じ日に来ないように」という、冗談めいた警告もあったほどだった。

とはいえ、説明のつかない奇跡が現実となった今、これはカタルーニャの重要なシンボルを熟知していると自慢する者にとっては、避けては通れない道だろう。

文=ハビエル・ジェラルド(スポルト紙記者) 取材協力=江間慎一郎

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