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イングランド代表に「レッズ式」と「セインツ式」を

見せているサッカーのクオリティーがいかに高かろうとも、今回キャピタル・ワン・カップ王者となったマンチェスター・シティのような「パパに甘やかされた」クラブが中立サポーターとの複雑な関係を解消するためには、やはり長い時間を要してしまうものだ。一方でピッチ内外における賢明な長期的マネジメントと、きわめて魅力的なサッカーとを組み合わせたチームを構築した上位半分の中の4チームが開花を果たしたことは、おそらく今季プレミアリーグの最大の喜びだと言える。タイトル争い自体が異例の接戦となっていること以上の喜びである。成金クラブではなく、単純に新たなスリルを提供してくれている。イングランドのサッカーへの信頼を取り戻させるのに十分なほどのスリルである。

この4チームのうちの2つ、アーセナルとエヴァートンがエミレーツで激突した12月の試合は、90分間を通してのあらゆる面でのクオリティーの高さという点で、今シーズンのこれまでの最大のハイライトとなっている。だが残りの2チームも、土曜日のセントメリーズで約60分間にわたってその試合に迫ることに成功した。最初の15分間は主導権を握ることに成功していたリヴァプールだが、ラストパスに精度を欠き、ようやくルイス・スアレスが奪った先制点もやや幸運に恵まれた形だった。それでも彼らは高いラインを敷く相手をたびたび脅かしており、ガナーズとトフィーズの両方がアンフィールドで味わわされたのと同じような大差を予想することも可能だった。だがサウサンプトンは見事な形で主導権を奪い返すことに成功。チームに特別な変化を加えるのではなく、むしろ自分たちのプレースタイルに変わらぬ自信を持ち続けることで、序盤の苦境を乗り越えて相手陣内へと猛攻を繰り出していった。

マウリシオ・ポチェッティーノ監督にとって不満だったのは、見とれてしまうほどの支配的な戦いを25分間にわたって続けながらも、アダム・ララナのシュートがシモン・ミニョレの守るゴールの右ポスト下部を叩いた場面以上にゴールに迫ることができなかったことだ。さらにリヴァプールはらしさを発揮し、ポチェッティーノがハーフタイムに施した戦術修正によって生まれたライン間のスペースを突くことに成功する。ラヒーム・スターリングが交代出場から約70秒後にゴールを奪って差を2点に広げた。計5本の枠内シュートで3点を重ねたのは、レッズの攻撃の選手たちが驚異的なまでの力を秘めている証拠にほかならない。守備陣が珍しく無失点に抑えたことも、トロフィーを追い求める残り10試合に向けて自信を高めてくれることは間違いない。

最終的な3-0という結果だけなら一方的に見えるが、試合自体はリヴァプールとサウサンプトン両チームの力を再確認させ、両チームのファンも中立のファンも思わず席を立って歓声を上げるような内容だった。そしてイングランドのファンや関係者にとって特に興奮できる理由となったのは、自国選手が核に据えられ、その周辺にこれほど素晴らしいサッカーが形作られていたことだ。

いわゆる黄金世代が、スベン・ゴラン・エリクソンのもとで3大会連続準々決勝の壁を破りきれず、スティーブ・マクラーレンに率いられたEURO2008予選で不名誉な死を遂げて以来、代表チームは深い不安感に包み込まれてきた。クロアチアに対する2度の大きな勝利も真の夜明けにはつながらず。ファビオ・カペッロも、クラブの外国人チームメートたちによる心地良い庇護がない状態でのイングランド人スター選手たちの戦術的インテリジェンスのなさに愛想を尽かしてしまった。急遽カペッロの代役を務めることになったロイ・ホジソンは、EURO2012で与えられた環境の中では良い仕事をしたが、それも退屈な守備的戦術によるものだった。イングランドは世代と世代の狭間にはまり込んで抜け出せなくなってしまっているのではないか、という感覚が消えず、今年の夏のワールドカップに向けてイタリア、ウルグアイとの同居を引き当てる以前から、チームへの期待は過去に例を見ないほど低下していた。

だがイングランドは、必ずしもそう頑なに劣等であり続ける必要はない。今週水曜日にデンマークと対戦する代表チームに、リヴァプールはマンチェスター・ユナイテッドと並んで最多の5人の選手を提供している。一方でセインツからも、クラブ史上最多の4人が名を連ねている。組織的な戦いを教え込むことに重点を置くことで知られるホジソンではあるが、代表チームのサッカーにおいては準備期間はきわめて希少なものだ。特定クラブの戦力をそのまま取り入れることで、選択肢は突然のように豊富になり、「スリーライオンズ」の攻撃面のプレーを改革することが可能となってくる。

たとえば、1カ月前に2週続けてエヴァートンとアーセナルを恐怖に陥れたリヴァプールを例に取ってみよう。ビッグマッチにおけるホジソンのイングランドもいつもそうなのだが、レッズは比較的低いディフェンスラインを敷き、試合全体を通してのボール支配率では50%を大幅に下回る数字を記録した。それでも、前の5人がハーフウェーライン付近から精力的なプレスをかけることで、スティーブン・ジェラードは中盤のスイーパーとして効果的に機能してルーズボールを拾い、そこから素早くジョーダン・ヘンダーソンやフィリップ・コウチーニョへと展開することができていた。彼らは相手ディフェンス陣を十分に引きつけた上で、一発の正確な縦パスでスアレスやスターリングやダニエル・スタリッジを抜け出させることが可能だった。

上記の6人の選手のうち4人がイングランド人だ。ウェンブリーでの試合でも、ほとんど戦術的な指示を加える必要もなく、4-3-3の形の中でも彼らを同じように起用することができるだろう。もちろんイングランド代表にスアレスはいないが、最も近い存在として我が国にはウェイン・ルーニーがいる。同じ役割を果たす責任を負わされれば奮闘してくれるかもしれない。中盤の3人の一角としては、コウチーニョのパスとテクニックの部分を、ジャック・ウィルシャーあるいはサウサンプトンのララナに埋めてもらうことができる。負傷中のセオ・ウォルコットがいれば、まだ粗削りで試合から消えることもあるスターリングの理想的な上位互換となったかもしれないが、必要であればジェイ・ロドリゲスやアンドロス・タウンゼントに代役を任せることもできるだろう。ジェラードのポジションでは、経験豊富なフランク・ランパードやマイケル・キャリックが代役を務めることも可能だ。ただしホジソンは、3人全員をブラジルに連れて行く必要はないはずだが。

以前のFoot! TUESDAYでも話したように、リヴァプールの中盤は場合によって機能しなくなってしまうことがある。ボールのポゼッションを支配する責任を負わされ、カウンターをしかける機会が減少してしまい、ジェラードの守備面での弱点が露呈してしまうような試合でのことだ。そういったケースでは、イングランド代表はよりポチェッティーノ的なスタイルへとシフトすることもできるだろう。より流動性の高い4-2-3-1を適用し、高い位置でプレスをかけてもよさそうだ。サウサンプトンの前線4人が見せるような、ボールがある場所とない場所両方での疲れ知らずのポジションチェンジを、ルーニー、スタリッジ、スターリング、ララナ、ロドリゲス、リッキ・ランバートをどの組み合わせで起用しても再現できるのではないだろうか。どの選手も十分な戦術的柔軟性を持っており、代表チームにバリエーション豊かな選択肢を約束してくれている。

2つのアプローチ法と、基本となるポジションのスタート位置には明確な違いがあるとはいえ、レッズとセインツには共通している部分もまた多い。ロジャースがスウォンジー・シティ時代から強調してきた4つの「P」、すなわちポゼッション、ペネトレーション(縦への突破)、プレッシャー、ペイシャンス(忍耐)は、ポチェッティーノのサウサンプトンにもほぼそのまま当てはめることができる。そしてホジソンとイングランド代表にとって何より重要なものはおそらく、戦術変更への適応という面において両チームの選手たちが共通して見せる器用さではないだろうか(リヴァプールは土曜日の試合をダイヤモンド型の4-4-2で戦っていた)。

土曜日の試合でのジョゼ・フォンテとデヤン・ロブレンのように非常に高いライン取りをさせるのは、ホジソンにとっては馴染みのないことかもしれない。だが自分たちより力の劣る、引いて守る相手を崩すためには妥協点を見出すことが必要となることもあるだろう。フィル・ジャギエルカはもちろんエヴァートンで後方からパスをつないでいくのに慣れているし、レイトン・ベインズやルーク・ショーは左サイドからオーバーラップをしかけるのに理想的な武器になる。よりラインの高い4-2-3-1を維持するための鍵は、中盤の底に十分な堅固さを確保できるかどうかにあるだろう。今季グディソン・パークで絶好調のガレス・バリーを呼び戻すことこそが、イングランドに欠けている部分を補ってくれるはずだ。

イングランドのサッカーは、決して悪いことばかりの状況ではない。リヴァプールとサウサンプトンは多くのことを示してくれているし、エヴァートンとアーセナルも忘れてはならない。過去のイングランド代表監督たちほどのプレッシャーを受けていない今、ホジソンにとっては冒険をしてみるのに良いタイミングだ。


文/ベン・メイブリー(Ben Mabley)
英・オックスフォード卒、大阪在住の翻訳者・ライター。『The Blizzard』などサッカー関係のメディアに携わる。今季も毎週火曜日午後10時よりJスポーツ2『Foot!』にてプレミアリーグの試合の分析を行う。ツイッターアカウントは@BenMabley

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