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補強に成功したクラブ、失敗したクラブは?

ちょうど金曜日にあたったので、今回の1月の移籍市場最終日は私のような独身男性の優雅な都市型生活スタイルにぴったり合うものだった。コンピュータ画面の前で忙しくも孤独に過ごすこの夜を祝うためにはやはり、相当量のビールを貯蔵用の温度から消費用の温度へと移す準備が必要だった。箕面ビールもあればベルギービールもあったし、ウェストフレテレン12さえ含まれていた。

だからこそ、プレミアリーグの多くの主要クラブがこの日の朝に開いた試合前の記者会見を利用して、今回の移籍市場での仕事はもう終えたと発表してしまったのはいささか残念なことだった。分刻みの速報サイトも、最前線で情報を伝えるイングランド全国の特派員たちも、残された期限が数時間になっても特に伝えることがなく退屈極まりないとツイートしていた。少なくとも私には、午前3時頃を迎えた時点でロスカットをして早めに床に就く選択肢が許されていたが。

もちろんこうなった主な理由は、各クラブが手早くターゲットを見定めて、1月末になる前に賢くビジネスを済ませていたからだ。金曜日の英国時間午後11時を迎えた時点で、落胆する結果に終わったように見えたチームはリヴァプールだけだ。1週間前にモハメド・サラーをチェルシーに掠め取られたのに続いて、最終日にはウクライナからイェフヘン・コノプリャンカを連れて来ることもできなかった。レッズの攻撃的MF補強に関しては、昨年夏にヘンリク・ムヒタリャンとウィリアンの両方を獲り逃したときと同じ、見慣れた失敗のパターンだった。ブレンダン・ロジャースが今後トップ4争いを続けていく上では、ルイス・スアレス、ダニエル・スタリッジ、フィリップ・コウチーニョのうち少なくとも2人が良好なコンディションを保てるかどうかに依存する部分がこれまで以上に強まっていくということだ。

マンチェスター・シティはディフェンスの中央の弱さを補強し、中盤に必要なバックアップを加えるため、それぞれエリアキム・マンガラとフェルナンドというポルトの2人をリストアップしたが、閉店間際に要求された法外な金額を支払おうとはしなかった。それでもタイトル獲得候補であることに変わりはない。前人未到の4冠は夢のような話だとしても。

厄介なことに1月には移籍金の多くが公表されないため、どの数字を信じるかにもよるが、今回の移籍市場での取引金額上位6件のうち5件にチェルシーが絡む結果となったようだ。唯一の例外は、ニューカッスル・ユナイテッドにとって痛烈な痛手となったヨアン・カバイェの放出に対して、パリ・サンジェルマンからの代償としてわずか2000万ポンドの小切手が手渡された取引だった。スタンフォード・ブリッジでの選手の出入りは、現代の移籍市場においてトップクラブの補強活動がどのように行われるかに関しての興味深いケーススタディーと見ることができる。サラーの獲得に先立って、ネマニャ・マティッチをチームに復帰させたことで、チェルシーはジョゼ・モウリーニョの必要としていた落ち着いてボールを動かせる守備的MFを手に入れることができた。

セルビア代表MFを2100万ポンド近い金額で獲得したことは、ロマン・アブラモビッチの財布にとってはとてつもなく損な取引となってしまった。彼は3年前にダビド・ルイスを獲得した際に、移籍金の一部を埋める安いトレード要員として手放した選手だったからだ。だがそれでも、必要とあればやらねばならないものだ。チェルシーはまた、長期的な未来に向けて守備陣の中央の補強にも乗り出し、19歳のクル・ズマと契約を交わした。『ガーディアン』が欧州で最も将来有望な10人の若手選手の中に含めていた選手である。今シーズン中はレンタルの形でサンテティエンヌに残るズマだが、ケビン・デ・ブルイネと同じ道を辿ることにはなってほしくないものだ。2度のレンタルを経て、結局プレミアリーグで3試合しか出場することができなかった彼は、完全移籍でヴォルフスブルクへと去って行った。

そして、フアン・マタである。3710万ポンドという金額面でも、選手本人の大物度でも、関わったクラブの名前に関しても、圧倒的に今回の移籍市場で最大の取引だった。舞台裏の詳細が明らかになってくると、非常に興味深い策略が見え隠れする。8月の時点ですでに、モウリーニョのもとで突然のように立場が悪化したマタは不満を抱いており、1月になっても状況が変化していなければチェルシーは彼の売却に応じるという合意を取りつけていた。マンチェスター・ユナイテッドは、のちにマタが要求するまでは移籍先としては認められていなかったチームではあるが、この動きをすべて把握していた。それでもユナイテッドは忙しい夏を過ごした香川真司に復調の時間を与えたが、秋を通しての日本代表MFのパフォーマンスが期待を下回ったと判断した後、マタの獲得へと動くことを決めた。5カ月前の補強が未遂に終わったことで恥をかかされていたエドワード・ウッドワードCEOは自身の経験不足を認めたようで、交渉の過程をすべて第三者に委ねることになった。

ユナイテッドが大金を引き出すためには、正真正銘の大型補強であるというその事実だけで理由としては十分だった。この補強を通して意思表明を行ったことは、少なくとも最初の時点では、カーディフ・シティ戦に臨むチームの士気を高める効果をもたらした。だが日曜日の敵地でのストーク・シティ戦の散々な戦いぶりは、マタのポジションが決して優先的に補強が必要なポジションではなかったことを思い出させた。デイビッド・モイーズは、他の重要なターゲットは1月には獲得できる状況になく、おそらくは夏に加入することになると主張していた。そうだとすれば、慌てて買いに走らないのも理解はできる。だが現在のオールド・トラフォードでの窮状を考えれば、ディフェンスと中盤に短期的な補強として経験豊富な選手を加えれば効果的だったのではないかと感じられる。2006-07シーズンに、サー・アレックス・ファーガソンがヘンリク・ラーションを2カ月契約で獲得して成功したような手法だ。

アーセナルはその道を辿り、31歳のスウェーデン人MFキム・シェルストレームをスパルタク・モスクワからのレンタルで獲得した。リヨンでのプレー経験もある彼は、数週間の離脱を要する背中の負傷を抱えてロンドンに到着するという形で、ガナーズのチームカラーに馴染むことができるのかどうかの疑問をすぐに払拭してみせた。メスト・エジル獲得後に素晴らしいサッカーを見せてきたアーセナルは、アーセン・ヴェンゲルのもとで方向性を見失っているという批判を力強く封じ込めることに成功したが、それでもやはりクラブはいくつかの弱点部分の補強に関してほとんど監督を助けてこなかったという印象がある。昨年夏のアシュリー・ウィリアムズも、先週のユリアン・ドラクスラーもそうだが、イバン・ガジディスと彼の周辺は、補強に向けた最初の打診までは行ってもその後の交渉継続には熱心ではないというイメージが出来上がりつつある。

だが1月の移籍市場の本当の価値も、あまり動きのない最終日に注目した価値も、順位表の下半分のチームのためにこそあったと言えそうだ。10チームがわずか6ポイント差にひしめく状況では、1つの勝利や引き分けが最終的には数百万ポンドの価値を持つことになりかねないからだ。少なくともホームでは堅固な守備を見せるハル・シティは、8月にやり残した仕事をようやく完了。致命的なまでにゴールを決められないFW陣を、ニキツァ・イェラビッチとシェーン・ロングに入れ替えることに成功した。1997年2月にウェスト・ハムの残留に向けた戦いを一変させたジョン・ハートソンとポール・キトソンのコンビを彷彿とさせるかのように、タイガースの新コンビは土曜日のトッテナム・ホットスパー戦で流れるような連係から先制点を生み出している。もう何年も一緒にプレーしてきたかのようだった。

カーディフ・シティでは、前任者のマーキー・マッカイには認められなかった補強資金を与えられたオレ・グンナー・スールシャールが、自身の代理人でもあるジム・ソルバッケンが取り扱う選手たち以外も獲得できる力があるということを証明してみせた。ウィルフレッド・ザハ(なぜモイーズは彼を決して使おうとしなかったのだろうか?)とケンウィン・ジョーンズは、ともにノリッジ・シティ戦で見事なデビューを飾り、カーディフを最下位から脱出させた。代わって19チームを下から見上げることになったのはフラム。土曜日にサウサンプトンに粉砕されたフラムだが、その前日には大きな動きを見せていた。レネ・ミューレンスティーンが次にオールド・トラフォードに帰還する際には、多くのクラブが欲しがっていたコスタス・ミトログルとヨン・ハイティンガを擁し、さらには元ユナイテッドのライアン・タニクリフとラーネル・コールもリーグデビューを飾る準備ができた状態で連れて行くことができる。


文/ベン・メイブリー(Ben Mabley)
英・オックスフォード卒、大阪在住の翻訳者・ライター。『The Blizzard』などサッカー関係のメディアに携わる。今季も毎週火曜日午後10時よりJスポーツ2『Foot!』にてプレミアリーグの試合の分析を行う。ツイッターアカウントは@BenMabley