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指導法に一つの正解はない

選手たちから最高の力を引き出すために、指導方法を改革すべきだということが世界中で盛んに叫ばれている。多くの国で行われる指導者養成コースを見てみれば、プログラムの大半がシニアの指導者を育成することに集中していることが分かる。なぜだろうか? それは、指導者が収入を得ることができるのはそのカテゴリだからだ。どの国やサッカー協会、あるいはクラブも、次世代のメッシやロナウドを生み出したいと望みながらも、その責任をボランティアや無給のコーチに委ねているのが現状だ。

指導者育成のピラミッドは、下り坂になっている。トップレベルで成功できなかった者は滑り降り、ほとんど予算のない草の根レベルにまでたどり着いてしまう。私はこれまでに世界中の監督たちや、いくつかのビッグクラブや主要国の協会などから数多くの手紙を受け取ってきた。彼らが期待していたのは、アジアにおいて若年層の育成に資金が向けられていることだ。それは事実とはかけ離れているのだが…。履歴書はいずれも見事なもので、資格や経歴など必要なもので満たされており、紹介状も添えられていたりする。中にはサー・アレックス・ファーガソンのサインが入ったものまであった。

それでは、彼らはなぜ私に頼ってくるのだろうか? イギリスやその他の国では、若年層のコーチたちは、その能力によって十分な収入を得ることはできない。選手たちを育てたことでは評価されないからだ。メディアもスポンサーもオーナーたちも、長期的な成長よりも短期的な成功をもてはやしている。私は日本で最も人気の高い子供番組に13年間にわたって出演することができ、出版物への露出や全国でのサッカークリニックも合わせて、大半の若年層コーチが得ることのできないような知名度や評価を得る幸運に恵まれた。子供を指導することにかけては私より優れているコーチも何人もいるが、サッカー界の経済システムがどう動いているかを本当に理解できている者はわずかしかいない。



サッカーにおけるユースレベルの育成は、国ごとにうまくいっているケースもあればそうでないケースもある。この点で、南米では一般的なストリートサッカーがしばしば言及される。最近、世界トップクラスのある指導者が、中国において育成が遅れているのは国内でストリートサッカーが行われていないことにその原因が根ざしていると指摘したことがあった。だが、日本や韓国でも子供たちがストリートでサッカーをすることは少ないが、両国ともにすでに来年のワールドカップ出場を決めている。21世紀の指導法と理解に切り替えなければならない今でも、時代遅れの概念や信念を持ち続けている指導者たちは多い。

サッカーの指導は、より有機的であるべきところで単調になってしまっている。各地域ごとの必要性に応じたプログラムが組まれるべきであるところに、実際には誰もがスペインやブラジル、あるいはイタリアやフランスのサッカーのやり方を取り入れようと試みている。

その中でも、日本の取り組み方は興味深いものだ。世界のあらゆる国からできる限り多くのことを学び、それをローカライズして自分たちの需要に合わせて適用しようと努めている。日本サッカー協会(JFA)の歴史を見れば、ドイツ、イングランド、オランダ、ブラジル、スペイン、アルゼンチン、フランス、韓国、クロアチア、セルビアからの影響を取り入れてきたことが分かる。ある1カ国の成功モデルをそのまますべてコピーしようとはせず、その中で何がうまく機能したのかを理解し、自分たちのためになる概念やアイディアを取り入れてきた。

だが、それ以上に私が最も面白く感じるのは、上記のことをまったく正しくやれなかったとしても、技術的才能に恵まれた選手を非常に若い年齢のうちから成長させることができれば、サッカーにおいてはどんなことも可能だという事実だ。ブラジルは先日のコンフェデレーションズカップでスペインを3-0で破って優勝した。これまでバルセロナとスペイン代表のサッカーは徹底的に解剖され、誰もが詳細な分析を行なう対象となってきた。それでもブラジルのように常に確かな技術を持っているチームが、そこに力強さとスピードを加えれば、特にホームではそう簡単に倒せる相手ではなくなってしまう。

偉大な選手とチームを育てるために、誰も正確な答えを持っているわけではない。だが、一つだけ確かなことがある。技術的に相手を上回る選手がいなければ、どんなシステムや戦術、フォーメーションで戦っても無意味になってしまうということだ。チームの戦いは常に、そこにいる選手たちの個人のクオリティーと特徴に左右される。現代サッカーの方法論はまるでデジタル時代の恐竜のようなものだ。


文/トム・バイヤー
“トムさん”の愛称でおなじみのU-12サッカーコーチ。すでに20年近く日本やアジア各国で指導者として活躍し、これまでに 延べ50万人以上を指導した実績を持つ。2008年からは自らが日本に紹介し、15年に渡り普及に努めた「クーバーコーチング」を離れ、独立。(株)T3 を設立し、さらに精力的にサッカー指導と、啓蒙活動に打ち込んでいる。ウェブサイトはtomsan.com