サッカーエンタメ特集:『狂熱のザンクトパウリ・スタジアム』

ハンブルクの海賊達の出自 【ヨコハマ・フットボール映画祭2013上映作品】
世界のサッカー映画から日本未公開の作品を含めたラインナップを毎年上映している「ヨコハマ・フットボール映画祭」。今年も2月11日、16日、17日の3日間で本邦初公開のジャパンプレミアを含む7作品を一挙に上映する。

Goal.com では、ヨコハマ・フットボール映画祭2013で上映される作品を紹介しながら、映画を通じて世界のサッカーを知る楽しみを伝えていく。今回は映画祭の代表を務める清義明さんに、映画祭で上映される話題作 『狂熱のザンクトパウリ・スタジアム』 について寄稿頂いた。


■サッカー映画 『狂熱のザンクトパウリ・スタジアム』

日本で最初にザンクトパウリを「発見」したのは、サッカーファンではない。むしろそれ以外の人たちが先に彼らに遭遇し、そして驚がくした。

筆者が「ザンクトパウリ」というクラブの名前を初めて知ったのは、そのチームがブンデスリーガ3部にいたときである。今から10年くらい前と記憶する。おそらく海外サッカー事情に精通している人でも、このザンクトパウリというチームについて当時はほとんど情報がなかったはずだ。

ドクロの旗をフラッグとした海賊のようなサッカーチームがハンブルクにある。そのチームはパンクやアナーキストにサポートされているチームで、ゲイやドラァグクイーンや移民やラスタや空き家不法占拠者や娼婦やアーチストのオルタネイティブなコミュニティと一体化しているらしい。そのチームはネオナチや右翼がメインストリームな他のチームのフーリガンと抗争を続けている…。

イングランドはサッカーの故郷である。そして同じくフーリガニズムの発祥の地でもある。そして80年代になると、右翼(国民戦線)がこれらのサッカーファンを取り込み、おおっぴらに外国人排斥や民族差別的なチャントやビラがスタジアムに跋扈(ばっこ)するようになる。イングランドからサッカーを学んだドイツは、この潮流もそのまま取り入れた。すなわちネオナチがサッカースタジアムに現れてサポーターを組織化し始めたのである。これは現在まで脈々とブンデスリーガの淀んだ歴史を形成している。このことは日本ではほとんど語られていない。そして、それらに対抗する運動の情報もほとんど皆無だ。どこの国でも忌まわしいことには誰もが口を閉ざす。もちろんそれは日本であっても同じことだ。

ザンクトパウリはネオナチムーブメントのアンチとして出てきた、アナーキストやパンクスや鉄道労組のアナルコサンディカリストたちがサポートしている左翼のクラブチーム……というよりは、彼らが乗っ取ってしまったクラブだ。ドクロの旗をはためかせながらサポーターは熱狂的に支持し、そのチームは孤独な戦いをブンデスリーガの3部で続けている。

まるでキャプテン・ハーロックやパイレーツ・オブ・カリビアンではないか! そうでもなければサイバー・パンクの世界だ。

ザンクトパウリのスタジアム、ミラントーア・シュタディオンにドクロのエンブレムを冠した男の通称は「ドクトル・マブゼ」。空地にコンテナを持ち込んで暮らす酒臭い男だ。ようするに単なる失業者である。日本で最初にザンクトパウリを特集したのはサッカー雑誌ではなく、森永博志(『POPEYE』『BRUTUS』の元編集者。著書に『ドロップアウトのえらいひと』など)が責任編集した雑誌だった。そこにはドクトル・マブゼのインタビューが掲載されているが、その語り口は、まるで近未来のテレビに支配され、荒廃した世界を描いたテレビ映画『マックス・ヘッドルーム』に出てくるパンクの爺さんのようである。映画の中でパンク爺さんは語る「俺たちは昔『ノー・フューチャー』と言ってきたけど、まさに今がそれだ」。ザンクトパウリは「ノー・フューチャーな現在」を顕現するクラブチームなのだ。

日本で最初にザンクトパウリに注目して、その情報を筆者に教えてくれたのは、高円寺を拠点に世界のオルタネイティブなサッカーサポーターと連携している、レイジ・フットボール・コレクティブ(RFC)のメンバーからだ。

最近、彼らが中心となって『アナーキスト・サッカー・マニュアル』なる書籍が上梓された。世界中のオルタネイティブなサッカーシーンとサポーターの運動を体系的にまとめた一冊である。

例えば、反ファシズムのサッカーサポーターの世界的な連携、人種差別へのサッカー界の草の根のカウンターアクションの潮流、「ウルトラス」が自由を希求するサポーターであるとの新しい史観、1978年にアルゼンチンをワールドカップ優勝に導いたメノッティは自らのサッカーを「左派的サッカー」と銘打って、優勝しても時の軍事政権の大統領との握手を拒否したこと、ゲイの権利擁護のために戦った選手たち、人身売買のようなアフリカ少年の欧州移籍を告発するNGOフット・ソリデール(ヨコハマ・フットボール映画祭2013上映の『ソカ・アフリカ-欧州移籍の夢と現実-』でも登場する団体)、等々。

メキシコでゲリラとして戦う民族解放軍「サパティスタ」がインテルのモラッティ会長から受けたサポティスタvsインテルの試合の招待状への返信も掲載されている。なお、当時のインテルのサネッティはチームメートとともに、この反政府組織に多額の寄付金とサッカー道具一式を贈っている。
階級、人種、ジェンダー、セクシュアリティ、グローバリズム、そうした現代のラジカルな問題に、サッカーがオルタネイティブに関わってきたことに、筆者は極めて個人的に興奮してしまう。ザンクトパウリは、そのような現象の代表的な事例なのである。

ヒップホップやレゲエが、電柱の変圧器から盗んだ電気でサウンドシステムを大音量で流したブロックパーティーから始まって、やがて商品化されていったように……そうだ、忘れてはならない、斬首された頭蓋を転がして争う村と村の闘いに由来するサッカーが、世界商品となっていったように、ザンクトパウリも今では「神話」となり商品化された。マブゼがミラントーア・シュタディオンに最初に持ち込んだドクロの旗は、スタジアムの隣の移動遊園地の縁日で買ったものだった。今では世界中に「商品」として流通する。

映画『狂熱のザンクトパウリ・スタジアム』は2009-10シーズンのザンクトパウリのホームゲームのクルヴァスッド(ゴール裏の南ゲート)に始まり、クルヴァスッドに終わる。一試合のほとんどすべてがスタジアム内のサポーターの光景でつづられた映画というのを自分は初めて観た。

今では欧州では珍しくなってきている立見席の風景には、いかに海賊たちといえども、いたって普通の親近感があるものだ。映画のナレーションはつぶやく、「ザンクリパウリの伝説、それがなんだというのだ」と。映画では政治や運動についての話はほとんど何も触れられていないに等しい。けれど、ザンクトパウリの神話についての基礎知識をもってから、この映画を楽しむのはそんなに悪くないことだと思う。



『狂熱のザンクトパウリ・スタジアム』 【日本初公開】
 2月16日(土)、17日(日)上映

監督:フェリクス・グリム
ドイツ/ドキュメンタリー/62分/2011年
舞台:ドイツブンデスリーガ2部


【著者】清 義明(せいよしあき)
ヨコハマ・フットボール映画祭代表、NPOハマトラ・横浜フットボールネットワーク代表理事。1967年神奈川 県生まれ。株式会社ナムコ勤務をへてWEBプロデューサー。現在は株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役。本業のWEB・イベント企画からサッカー原稿の 執筆まで幅広く仕事をしている。サッカーと映画をこよなく愛する。サポーターとしての逸話も事欠かかない。
本映画祭では、『ソカ・アフリカ -欧州移籍の夢と現実』をはじめ、『狂熱のザンクトパウリ スタジアム』『フットボール・アンダーカバー-女子サッカー・イスラム遠征記』の字幕翻訳も担当。


【ヨコハマ・フットボール映画祭2013について】

世界の優れたサッカー映画を集めて、2013年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月11日(月/祝)・16日(土)・17日(日)に開催! 詳細は公式サイト(http://yfff.jp)にて。