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審判問題とその背景、Jリーグが進むべき未来を考える

8月18日に行われたJ1浦和対鹿島戦後の記者会見で、ジョルジーニョ監督が審判に対する痛烈な批判をした件で、試合から1カ月後の先週9月18日にJリーグは制裁決定を発表した。ジョルジーニョ監督はJリーグに始末書を提出することになる。

その一方では、Jリーグ審判委員長の上川徹氏が強化担当者会議の場で、審判員の技術向上のための活動内容を説明し、今後もさらに努力することを約束。鹿島の通訳が涙を流しながら訴えた問題提起は、Jリーグ側にも一定のアクションを起こさせる結果で終わった。

しかし、これですべてが片付いたとは到底言えないだろう。今回は審判問題とその背景、そしてJリーグが進むべき未来について、日頃から鹿島を取材しているサッカーライターの田中滋氏と、Goal.com日本版の清水英斗による座談をお送りする。


清水 今回の処分は浦和戦後の発言に関するものですが、ジョルジーニョ監督って毎試合、審判のことを記者会見で批判していませんか?

田中 特に今年は多いんです。第1節の仙台戦、鎌田が前半で退場になっていてもおかしくなかったのにカードが出なかった。第3節の広島戦は足がボールに当たっているのに新井場が退場にさせられた。FC東京戦は不可解な間接FKが2発。浦和戦はマルシオのPK、そして大迫を槙野が引っ張ったのに大迫のファールでゴール取り消し。名古屋戦はケネディのハンドがPKなし。柏戦はジョルジ・ワグネルのファールが流され、その後の西のハンドが取られてPKになった。そして、その後に起こった柏側のハンドは取られない。磐田戦では曽ヶ端のファンブルをロドリゴ・ソウトのファールと取られて、磐田のゴールが取り消されている。

清水 ジョルジーニョが批判の矛先に挙げたケースは、枚挙にいとまがないようですね。磐田のロドリゴ・ソウトの件以外は、鹿島が損をしたパターンのようですが。

田中 磐田のことがあったからではなく、その前からジョルジーニョ監督は「うちが不利を被ってるから言ってるわけじゃない」と繰り返し主張していました。前監督のオリベイラさんは「鹿島が作為的に狙われてる」と言うこともあったけど、ジョルジはそこまでは言わないですね。

清水 あの浦和戦の後、ジョルジーニョが廊下でミハイロ・ペトロビッチ監督とすれ違って立ち話をしてたんですけど、彼らはJリーグの審判のレベルを問題視している様子でした。外国人監督はみんなそう言っている、と。

田中 ゴドビ監督もかなり痛烈に批判してますよね。おもしろいと感じたのは、ロドリゴ・ソウトがファールを取られたことで勝ち点を失った磐田の森下監督は、審判とかに影響されないで、そういうのがあったとしてもうちは勝てるチームになりたいと言っていたのが、本当に日本人的だなと思ったんですよ。それが日本人の審判に対する考え方になっていて、まあしょうがないよ、という捉え方をしてきたのが、ここまで大きな問題にしてしまった原因の一つかなと。

清水 ほとんどの日本人監督は審判批判をしないですかね?

田中 (長谷川)健太さんは言ってたかもしれません。西野監督もときどき、ぼやかした言い方で言ってるかな。でも、大概が皮肉で終わりますよね。

清水 もしも、日本人監督がグローバルなマーケットで活躍していたら、もっと痛烈に言っている気もします。だけど今は日本サッカーという閉じられた世界で飯を食っているから、勝負へのこだわり以上に、人間関係とかJリーグとの関係をすごく気にする面も少なからずあると思う。敵をつくらないようにと。

田中 そう思います。選手の意識が高くなっているけど、そこに追いついていないということですよね。この問題って。

清水 浦和とFC東京の試合でも、浦和の鈴木はミックスゾーンでFC東京の高橋のハンドが見逃された場面について、「あれは絶対にハンド。誰が見たってハンドなのに、審判だけが見えていない」とみんなに聴こえるぐらいのボリュームで息巻いていた。ただ、彼は「(引き分けてしまったのは)後半にそれぐらいしか決定機をつくれなかった僕らにも原因がある」とも言っていたけど。ただ、やっぱりこういう話はメディアには載りにくいですね。日本は審判の話を問題として捉えたくない風潮があるから。監督もメディアもそう。ケンカをすると飯を食べていけなくなる。だから、なし崩し。

田中 だけど、もう限界ですよね。明らかに限界は来ていると思う。サポーターの様子を見ていても、自分たちに不利だから怒っているんじゃなくて、自分たちが見ているサッカーの質が保たれていないことに我慢がならない、というほうに傾いてきている。もちろんそうじゃない損得だけの声もあるけど。何かしらのアクションを起こさないと、もう厳しいですよね。

清水 もちろん、試合前のコーディネーションミーティングで行われているフェアプレーへの誓いや、レフェリーへのリスペクトが足りてないのも事実だと思うんですよ。選手や監督にもよるけど。ただ、一つだけ確かなのは、選手や監督は競争の場にさらされて戦っている。だけど審判は常にブラックボックスの中にいて、どう評価されているのかが分からない。それもストレスの原因かなと。「頑張ってますよ」と釈明してもらいたいわけではなく、同じテーブルに乗って自由な意見をぶつけられる立場にいてほしい。アンタッチャブルな存在にしてしまうのは、周囲にも問題があると思います。

田中 そうなんですよね。分からないのがいちばんストレスを抱える。選手と審判も、メディアとサポーターも、クラブとサポーターも、みんなもっと近い存在になっていいと思うんですよね。やっぱり人間なんだし、そこを表明していけばミスマッチのような気持ち悪さもどんどん無くなっていくと思う。ある選手と話したとき、すごく印象的だったのが「今の審判はどこかにファールが落ちてないか、イエローカードを出すところがないかを探しながらやっている」という言葉でした。でも正しくはそうじゃないですよね。選手が良いプレーをする、その妨げになるものを排除していくのが質の高いレフェリーですよね。

清水 その通りだと思いますし、そういう自由な議論を許すことが大事だと思います。レフェリー(referee)の語源って、refer=言及する、問い合わせる、なんですよね。お互いの意見がどうしても合わないときに、第三者に仲裁してもらう。それが元々のレフェリーの役割なんですけど、今はその意味が裁判官とか警察のように解釈され、まるで絶対的正義のような立ち位置になってしまう。そうなってしまう原因はお互いにあるのかもしれない。

田中 試合が終わった後に、「あの審判なんとかして」とコメントを聞くことが今年は本当に多いんですよね。「あいつ辞めさせてくれ」と。選手からの評価はものすごく高かった岡田正義さんらが辞められたことで若くて経験の少ない審判が多くなったとはいえ、それは本当に不幸な関係ですよね。

清水 それに、そういう選手のコメントの多さの割りに、メディアには載らないんですよね。そういうことがまた、不健康な関係をつくってしまう。

田中 海外だと、審判に対する評価を下すメディアがあるじゃないですか。アマチュアに対しても同じようにやってるわけですよね。そろそろ、日本でもそういう審判に対する評価を出していくべき土壌は出来てるんじゃないかと思うんですよね。いまの段階でも、メディア側の主観で審判を批評することは可能だと思うのですが。このままではあまり審判技術の向上には繋がらない。さっき清水さんが仰ったように審判の方もテーブルに乗らなければ。

清水 今はまだ「審判のミスを一切認めない」と、極端な態度を取る人を恐れているような気はしますね。なぜUEFAやFIFAがゴールラインテクノロジーにより機械判定を用いることに関して、ものすごく慎重になっているのか。人が審判を務めることの意味とは何か。それをみんなが理解していれば、審判に対する公の評価なんて何の躊躇もなくやるべき話なんですけど。ダメの指摘ばかりじゃなく、うまい人はうまいと評価できたほうがいい。

田中 お互いに成長するものですからね。ミスをするたびに辞めさせたら審判は誰もいなくなってしまう。主審の家本政明さんは唯一お話したことがある審判なのですが、彼はなぜそのジャッジを下したのか、ちゃんと説明する言葉を持っていた。だったら、まずはそれをきちんと表明する場を持った方がいいと思うんです。そうすれば見ている側もある程度は納得できるし、じゃあこのときの審判のポジションは間違いじゃないのかと、判定についても建設的な議論ができる。次の段階へ行ける。今のままでは審判も成長しないし、見てる側のフラストレーションも解消されない。Jリーグ全体の観客数が減少しているいま、うかうかしていられない状況になっていると思う。

清水 ベストメンバー規定も、審判問題を取り上げないメディアも、今の時代の日本サッカーの成熟度に合っていない気がします。少しずつ大人にならなければ。

田中 Jリーグって、開幕したときは今までにないことをやって人を引きつけてきたと思うんですよ。それが時代にとって新しかったわけで。そのころの理念を忘れずに、いろいろトライしてほしいと思いますね。


(プロフィール)
田中滋(たなか・しげる)
1975年生まれ。08年より「J'sGOAL」、「ElGolazo」にて鹿島アントラーズの担当ライターを務める。現在、メールマガジン「GELマガ」を好評執筆中。ツイッターアカウントは @gel_tanaka

清水英斗(しみず・ひでと)
Goal.com Japanの編集長を務める。サッカーライター&編集者。
著書は「サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点~」
ツイッターアカウントは @kaizokuhide

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