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イタリアの3バックと2つの危機

第14回:EURO2012 グループC

EURO2012のグループCは、サッカーの戦術の愛好家たちにとって、戦術論について興味深い復習のできる機会となった。その最大の要因は、イタリア代表のチェーザレ・プランデッリ監督が用いた、ややレトロな3ー5ー2のシステムにあった。

3ー5ー2は1990年代中盤から後半にかけて短いブームを起こした(発展期にあったJリーグではそのもう少し後まで流行が継続)。最大の好例はおそらく、ともにマティアス・ザマーがスイーパーを務め、1996年のEURO王者となったドイツ代表、それに1997年のUEFAチャンピオンズリーグ王者となったボルシア・ドルトムントだろう。

3ー5ー2が流行したのは、当時隆盛だった4ー4ー2と対戦する場合に、このシステムがそもそもの性質として二つの利点を持っているからだ。一つ目は、3人目のCBが1人余ることによって他の2人をカバーし、相手のFW陣がプレーしにくくなること。二つ目は、中盤の人数で相手を上回ることで、3ー5ー2で戦うチームはポゼッションで優位に立つともに、ボールを幅広く展開してサイドでの攻防にも勝つことができるという点だ。

だが、これらの利点は現在の流行となった4ー2ー3ー1によって打ち消され、打ち破られることになってしまった。相手の1トップに対して最終ラインでは2人が余るため、3人目のCBは余分な存在となる。中盤では、開始時点の人数が5人対4人ではなく5人対5人の互角となった。そして決定的なのは、相手の両サイドバックがフリーになり、代わる代わる前線へ飛び出していくスペースを得られるようになってしまうことだ。サイドバックが6人目の選手となることで、中盤ではよりピッチを幅広く使えるようになり、その結果それぞれのサイドを支配できるというわけだ。

ユヴェントスやウディネーゼのようなチームが3ー5ー2を用いて過去2年間に成功を収めることができたのは、ワイドな布陣を避け、非常に横幅の狭い4ー3ー1ー2を好むというセリエAの特異な傾向に主な理由があった。また今シーズンに関して言えば、他のチームの側でも対策として3バックを用いていた。

したがって、スペインが純粋なストライカーを置かず、中盤の幅を狭めて「偽9番」(名目上はセンターフォワードの位置にいながらも、実際には中盤まで深く下がってくる傾向のある選手)を置く布陣でイタリア戦に臨むというのはきわめて妙な選択だった。実際には「偽10番」のタイプであるセスク・ファブレガスをその役割に起用したことは、間違いなく世界王者が縦への突破力を欠く要因となった。彼もダビド・シルバもアンドレス・イニエスタも、イタリアのDF陣の「前」のスペースしか探そうとしなかったためだ。このポジションでも、また中盤の中央でも、両チームは単純に3人対3人の構図となっていた。


スペインは自分たちの持ち味通りにボールキープ率で上回り、相手ボール時にはイタリアの3バックに対して(前半には十分とは言えないものだったとはいえ)プレスをかけていたが、ポゼッションをより効果的にチャンスにつなげることができていたのは両サイドを生かすイタリアの方だった。クリスティアン・マッジョと初出場のエマヌエレ・ジャッケリーニは、ジョルディ・アルバとアルバロ・アルベロアに比べればはるかに創造的な仕事に従事することができていた。スペインの両サイドバックは、マリオ・バロテッリとアントニオ・カッサーノの動きによって外側へ釣り出されてしまう守備陣を助ける必要もあったためだ。

しかし後半になると徐々にこの構図が変化してくる。シャビがより高い位置でプレーすることでスペインは中盤の横幅をより効果的に使えるようになり、アルバも攻撃に加わることができるようになった。イタリアに疲れの色が見え、セスクに代えてフェルナンド・トーレスが投入されたことで、終盤にもう1点を加える気配を感じさせたのはイタリアよりもビセンテ・デル・ボスケのチームの方だった。

ポズナンでアズーリと対戦したクロアチアも、3ー5ー2への対処法を忘れたかのような形で試合をスタートさせた。3ー1で勝利を収めたアイルランド戦に比べるとルカ・モドリッチがより低い位置に下がったが、マリオ・マンジュキッチはニキツァ・イェラビッチとともにやや高過ぎる位置に残ることが多く、クロアチアの実際の布陣は4ー4ー2の出来損ないのような形になってしまっていた。それ以上に致命的だったのは、中央で一人余る形となった選手がアンドレア・ピルロだったことだ。前半はクロアチアの3本に対してイタリアは11本のシュートを放ち、1ー0でハーフタイムを迎えた。


だがスラベン・ビリッチは、後半から選手ではなく布陣を劇的に変更することで、流れを自軍へ大きく引き寄せることに成功した。クロアチアのシステムは4ー2ー3ー1となり、「3」の中央に位置するモドリッチがピルロと向かい合う。イバン・ラキティッチはボランチの位置へ下がり、マンジュキッチは右サイドへと移った。


これが狙い通りに功を奏し、イタリアは中盤の支配権を失い、その結果として後方へ押し下げられてしまう。マッジョとジャッケリーニは、攻撃力を発揮できるようになったクロアチアの両サイドバックのダリヨ・スルナとイバン・ストリニッチの攻め上がりに脅かされる状態となった。そのストリニッチからのクロスをマンジュキッチがゴールに繋げ、クロアチアが勝ち点1を獲得。後半のシュート数では7対3でイタリアを上回り、追いつくにふさわしい内容の戦いだった。スペイン戦に続いてまたしても、プランデッリは相手の変化に効果的に対応することができなかった。

いまやイタリアは2つの危機にさらされている。まずは同国の元代表監督でもあるジョヴァンニ・トラパットーニとの対戦。すでに敗退の決まったアイルランドを率いて、守備重視の4ー5ー1ないしは4ー4ー1ー1で挑んでくることになりそうだ。

もう一つは、EURO2004のスウェーデン対デンマーク戦と同じように、スペインとクロアチアとの試合が2ー2の引き分けに終わってしまうのではないかという不安だ。こちらはグループCの中でも戦術的に最もオープンな試合であり、最も観る者を楽しませる試合となることが期待できそうだ。


文/ベン・メイブリー(Ben Mabley)
英・オックスフォード卒、大阪在住の翻訳者・ライター。『The Blizzard』などサッカー関係のメディアに携わる。ツイッターアカウントは@BenMabley

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