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円高に苦しむ中で

ビッグネームは中国へ?

ミランのオーナーのシルヴィオ・ベルルスコーニ氏がイタリア首相の座から降りたのは、イタリア国債の金利が「危険水域」と言われる7%に上昇した数日後だった。日本で「民主主義が生まれた国だと感じた」と悠長な事を言うテレビキャスターの向こうでは、火炎瓶が飛び交うギリシャが映し出されていた。年をまたいでも、混乱は収まらない。世界の潮流に日本も当然巻き込まれ、今やレートは「1ユーロ=100円」を割っている。

世界を取り巻く事態は深刻で、ドル等に対する円高は日本企業を逼迫させている。だが、先を見通しにくい現状だからこそ、逆に何かしら光を見いだす必要がある。大局を語らずともまず身近なところに目を向ければ、例えば海外への旅人は円高の恩恵を受けている。今冬の年末年始の海外旅行者数は、不況にもかかわらず円高基調に乗って増加したという。スーパーの値札には、「円高差益還元」の文字が踊る。さらには、そんな2つを合わせて利益を得ることも可能かもしれない。「海外」そのものの「輸入」。たとえば、欧州のサッカー選手の獲得だ。

近隣の大国は、すでに輸入を開始した。通貨レートなど関係なく、中国ではオーナーなど強烈な「個」の力がワールドクラスの磁場を発生させる。引き付けられた一人が、チェルシーFWニコラ・アネルカだ。イングランド国内や、アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)からの誘いを断ったというが、伝えられる週給20万ポンドというサラリーを聞けば説得力は増す。日本円で1カ月につき1億円近い給与には、さすがに面食らう。

では、日本にビッグネームを呼ぶのは無理なのだろうか。イタリア代表としても長らく活躍したアレッサンドロ・デルピエーロのユヴェントスとの契約が今季限りで終わることが発表されると、イタリアメディアは移籍先候補に「Giappone」(日本)との文字も片隅に載せた。

かつてレアル・マドリーでプレーし、ベジクタシュとの契約を解除したグティも、「アジアならプレーする可能性がある」と秋波を送った。中国へ向けてのものだったが、メッセージとともにもう少し東に飛んで、日本に到着するのも悪くない。MLS経由では、フレドリック・ユングベリもやって来た。アメリカでデイビッド・ベッカム、ティエリ・アンリがまだまだプレーの場を求めているのは、周知のとおりだ。屈強なMF、元ドイツ代表主将のミヒャエル・バラックも、来季はレヴァークーゼンには残らない。

もしも彼らを迎えるとしたら、実際どのくらいの年俸が必要なのだろうか。『transfermarket.de』をのぞいてみると、彼らの市場価値は…。

グティ(35歳) 200万ユーロ
アンリ(34歳) 300万ユーロ
ベッカム(36歳) 350万ユーロ
デル・ピエーロ(37歳) 500万ユーロ
ミヒャエル・バラック(35歳) 500万ユーロ

これが一時期の「1ユーロ=150円」のレートなら…。

グティ 3億円
アンリ 4億5千万円
ベッカム 5億2500万円
デル・ピエーロ、バラック 7億5千万円

というところ。しかしこれを、現在の「1ユーロ=98円」で計算すると…。

グティ 1億9600万円
アンリ 2億9400万円
ベッカム 3億4300万円
デル・ピエーロ、バラック 4億9千万円

急にお得に見えてくるから不思議だ。

大きな「実」


実際のゲームでの活躍は大前提だが、ビッグネームでピッチ外でも「実」を取ることはできる。数字は、ユングベリ加入後の清水のホーム観客数に表れている。加入前のホーム12試合の観客数は、1試合平均1万7174人だった。これが実際に新戦力がプレーした26節からの5試合では、1万9958人に跳ね上がる。もちろん、序盤には東日本大震災の影響は多分にあった。ユングベリ加入後のホーム対戦相手が浦和、名古屋という人気チーム、近隣の甲府、優勝争いをする柏とG大阪と続いたこともある。浦和戦からホーム3連勝もした。だが、それら5試合のうち一度として1万8000人を割っていないのも事実だ。それまでの12戦で、そのラインを越えたのは1度だけだった。

人気選手なら、グッズの売り上げも期待できる。ざっくばらんに勘定しても、ユニフォームを1着1万円で1万枚売ったとしたら、実際の利益は置いておき、売上高は1億円だ。売り上げ枚数ごとの達成ボーナスを選手契約にオプションとして設定したっていい。もちろん支払いは選手も喜ぶであろうユーロ建てだ。有名選手の存在で、国外でもチーム名、さらに「スポンサー名付き」のユニフォームが露出される価値はいかほどか。

さらに、「実」に傾くこともできる。安くて実力のある選手の獲得だ。話が一気に広まるビッグネーム以外にも、すでに欧州では今季限りで契約満了となる選手の通称「ボスマン・リスト」が出回っている。シーズン途中である半年後を見据えることはたやすくなく、欧州のように夏からチームをつくり始められる訳でもない。だが、夏の加速を念頭に、この冬のチーム編成を考えることは可能だろう。

たとえば、ギリシャ。この国の選手は日本ではまず見かけることがないが、欧州のビッグクラブにもちらほら所属し、代表チームは堅守をベースにEUROも制した。その実力のほどを語る証言者もいる。実際に昨年1月からギリシャのアリス・テッサロニキでプレーした坂田大輔(現FC東京)だ。元同僚の日本代表DF栗原勇蔵を引き合いに、肌での感じた力を語る。ボスマンリストに載る、1人の「外国人」選手についても話してくれた。

「DFだったら、速さと強さで勇蔵を超えるような選手がいっぱいいる。足元は驚くほど下手だけど、ずっとマンマークさせたりしたら、相当仕事をするはず。夏に(FWカリム・)ソルタニというフランス人が来たけど、うまくて速くて良い選手だった。オランダで本田(圭佑)と、ギリシャで(小林)大悟とプレーしたから、日本人と一緒になるのは3度目だと話していた」

パナシナイコスのようなチャンピオンズリーグ(CL)出場チームのメンバーや、他チームでも代表選手など一部は他国同様に高給を手にするが、そのほか、特にギリシャ人選手の年俸は高くないという。

「ギリシャに行ったとき、『何でギリシャに来たんだ』『日本だといくらくらいもらえるんだ』と聞かれた。3000万円? 絶対にそんな年俸もらっていないと思う」

破綻した国を草刈り場とするような失礼な見方はしないが、確かに原石は転がっていそうである。欧州のトップリーグが日本をそう見るように。

鶏が先か、卵が先か


最近の日本では外国人選手に関して、「安い割りに」使えて、すでに日本で実績のある選手を使うというコストパフォーマンスなど効率重視が目に付く。確かにそれも立派な手法だが、すべてがそれでは面白みにも爆発力にもかける。内向きのデフレスパイラルにはまり、近年のアジアの舞台では、レギュラーの多くが海外でプレーする代表チームと裏腹にクラブチームの不振が続く。

大物が中国に集まることにファンの不満の声も聞くが、やはり何かの魅力がなければ国内外で人は呼べない。金か、リーグの面白みか、国への興味か。高名選手に投資してリーグを盛り上げるか、なんとかまずリーグを盛り上げ、ピッチ内外を潤して人を引き付けるか。どれが鶏で、どれが卵になるかは分からないが、上昇していくには何か攻めのスイッチを入れなければならない。

外国人選手には、住居や通訳と支出はかさむ。ビッグネーム1人の年俸で、何人もの日本人選手を雇えるかもしれない。現状は、国中の「聖域なき削減」の合言葉の下、カテゴリー問わず冬に行き場を失う選手が増え続ける。時代と状況の違いはあろうが、鹿島のジーコ等、起爆剤の効力はJリーグの歴史が物語っている。


文/杉山 孝

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