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2010年南アフリカワールドカップ(W杯)は、早くも一人のスターを欠くことが決まった。デイビッド・ベッカム不在の大会――。詳しい検査結果を待たなければ、断言はできない。しかし、アキレス腱断裂という重傷が3カ月程度で完治することなど、奇跡が起きても不可能なはずだ。
14日に行われたセリエA第28節キエーヴォ戦に先発出場した彼は、ミランを勝利に導くために走り回っていた。しかし終盤、ベッカムは突如痛みを訴え、ピッチから退いた。
あまりに突然で、接触など何もない場面での負傷だったため、記者席も含めたサン・シーロが、彼のケガが深刻なものであることに気づくのには時間を要した。スタンドから見る限りでは、足を痛めてベンチに処置を求めている程度にしか見えなかった。少なくとも、同じサン・シーロで開催された2月28日のアタランタ戦での、ミランFWアレシャンドレ・パトが負傷したときのような雰囲気ではなかった。パトの場合、ピッチで倒れてまったく動けないまま担架で運び出されているが、ベッカムは自力でピッチの外に出ていたからだ。
このような見方は、レオナルド監督も同じだったのだろう。しかし、片足でベンチまで戻ったベッカムの言葉を聞いた指揮官の表情が、衝撃の大きさを物語った。
「切れた」――。ピッチサイドリポーターによると、ベッカムはそう伝えたという。予想だにしない言葉を耳にしたミランベンチは慌て、ピッチサイドで処置を受けるベッカムは涙を流した。
無理もない。もともと、ベッカムがミランに来たのは、イングランド代表としてW杯に出場するためである。レンタル元であるLAギャラクシーとの契約問題を整理するために私財を投じたことも、家族と離れてイタリアで暮らすことも、すべてはファビオ・カペッロ代表監督に認められるためだった。あらゆるものを捧げて目指した夢が、目前で泡と消えたショックはどれほどのものか。計り知ることなどできない。
レオナルド監督が、「デイビッドの負傷で勝利の喜びは半減だ」と話したように、試合後のミラン陣営は誰もがベッカムの不運を嘆いた。ロスタイム弾による劇的勝利後のチームとは思えない硬い表情は、事態の深刻さを説明するのに十分だった。
しかし、そんな中で柔らかい表情を浮かべた選手がいた。ベッカムである。最もショックを受けているはずの彼が、カメラの前で穏やかな表情を見せたのだ。ミランのスーツに着替えたベッカムは、帰路につくためサン・シーロの地下駐車場へやってきた。わずかな振動が足に響くのか、松葉杖をつくベッカムは時折しかめっ面になる。だが、地下駐車場にいた関係者らから拍手で迎えられた彼は、車の助手席に座ると軽く親指を立てた。さすがに悲嘆のすべてを隠すことはできなかったが、気丈に振る舞う姿は印象的だった。
試合が終わってすぐ、ベッカムは翌15日にフィンランドへ渡ることが決まった。こういった治療のエキスパートの診断を受け、その後、手術が行われる予定とのことだ。しかし、ミランのアドリアーノ・ガッリアーニ副会長は、「一般的に考えて、5~6カ月は必要」と復帰時期を見積もっている。残念ながら、どんな名医が診たとしても、ベッカムを夢の舞台に導くことは厳しいだろう。
それでも、彼の努力が無駄ではなかったことは証明されるべきだ。なんとしてもW杯に出たいというベッカムの意欲は、すべての人に伝わっている。だからこそ、レオナルド監督をはじめとしたミラン陣営は誰もが肩を落とし、メディアも重いトーンでこの話題を報じた。
彼の代表への執着心は、ミランとイングランドのモチベーションへと昇華されなければならない。デイビッド・ベッカムは、ただの世界一有名なサッカー選手ではない。
文/伊藤敬佑
14日に行われたセリエA第28節キエーヴォ戦に先発出場した彼は、ミランを勝利に導くために走り回っていた。しかし終盤、ベッカムは突如痛みを訴え、ピッチから退いた。
あまりに突然で、接触など何もない場面での負傷だったため、記者席も含めたサン・シーロが、彼のケガが深刻なものであることに気づくのには時間を要した。スタンドから見る限りでは、足を痛めてベンチに処置を求めている程度にしか見えなかった。少なくとも、同じサン・シーロで開催された2月28日のアタランタ戦での、ミランFWアレシャンドレ・パトが負傷したときのような雰囲気ではなかった。パトの場合、ピッチで倒れてまったく動けないまま担架で運び出されているが、ベッカムは自力でピッチの外に出ていたからだ。
このような見方は、レオナルド監督も同じだったのだろう。しかし、片足でベンチまで戻ったベッカムの言葉を聞いた指揮官の表情が、衝撃の大きさを物語った。
「切れた」――。ピッチサイドリポーターによると、ベッカムはそう伝えたという。予想だにしない言葉を耳にしたミランベンチは慌て、ピッチサイドで処置を受けるベッカムは涙を流した。
無理もない。もともと、ベッカムがミランに来たのは、イングランド代表としてW杯に出場するためである。レンタル元であるLAギャラクシーとの契約問題を整理するために私財を投じたことも、家族と離れてイタリアで暮らすことも、すべてはファビオ・カペッロ代表監督に認められるためだった。あらゆるものを捧げて目指した夢が、目前で泡と消えたショックはどれほどのものか。計り知ることなどできない。
レオナルド監督が、「デイビッドの負傷で勝利の喜びは半減だ」と話したように、試合後のミラン陣営は誰もがベッカムの不運を嘆いた。ロスタイム弾による劇的勝利後のチームとは思えない硬い表情は、事態の深刻さを説明するのに十分だった。
しかし、そんな中で柔らかい表情を浮かべた選手がいた。ベッカムである。最もショックを受けているはずの彼が、カメラの前で穏やかな表情を見せたのだ。ミランのスーツに着替えたベッカムは、帰路につくためサン・シーロの地下駐車場へやってきた。わずかな振動が足に響くのか、松葉杖をつくベッカムは時折しかめっ面になる。だが、地下駐車場にいた関係者らから拍手で迎えられた彼は、車の助手席に座ると軽く親指を立てた。さすがに悲嘆のすべてを隠すことはできなかったが、気丈に振る舞う姿は印象的だった。
試合が終わってすぐ、ベッカムは翌15日にフィンランドへ渡ることが決まった。こういった治療のエキスパートの診断を受け、その後、手術が行われる予定とのことだ。しかし、ミランのアドリアーノ・ガッリアーニ副会長は、「一般的に考えて、5~6カ月は必要」と復帰時期を見積もっている。残念ながら、どんな名医が診たとしても、ベッカムを夢の舞台に導くことは厳しいだろう。
それでも、彼の努力が無駄ではなかったことは証明されるべきだ。なんとしてもW杯に出たいというベッカムの意欲は、すべての人に伝わっている。だからこそ、レオナルド監督をはじめとしたミラン陣営は誰もが肩を落とし、メディアも重いトーンでこの話題を報じた。
彼の代表への執着心は、ミランとイングランドのモチベーションへと昇華されなければならない。デイビッド・ベッカムは、ただの世界一有名なサッカー選手ではない。
文/伊藤敬佑
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