コラム:カッサーノが代表に呼ばれないワケ
“世論”で失いなくない“威厳”
2009/11/05 19:10:39
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サンプドリアFWアントニオ・カッサーノは、なぜイタリア代表に呼ばれないのか。そんな議論がイタリア・メディアを賑わすようになって、もうかなりの月日が経った。
実際、彼が呼ばれない理由はほとんどないように思う。今シーズンは昨シーズンにも増して、チームにとって効果的な選手になっている。好調サンプドリアを牽引する一人として、ここまでのリーグ戦で見事なパフォーマンスを見せてきた。プレーだけでなく精神的な面も含めて、だ。
以前のカッサーノであれば、暴言による一発退場の恐れや、チーム内でのトラブルを未然に防ぐために、メンバーから外す選択肢も考慮すべきだっただろう。ただ、今の彼に、そういったおそれがある印象は受けない。すでにワールドカップ(W杯)本大会出場権を獲得しているわけだし、一度テストしてみる価値はある。それに値する活躍はしてきた。誰もがそう思っている。
では、なぜマルチェロ・リッピ代表監督は彼を呼ばないのか。
「みんながオレを代表に推してくれるのはうれしいけど、騒ぎが大きくなるほど、逆効果だと思うんだ」。カッサーノ本人が、9月末のインタビューでこう語っていた。実際にリッピと接してきたカッサーノは、指揮官の性格を把握した上で、こう話したに違いない。
代表合宿があるたびにカッサーノの招集外について問われるリッピは、かなりイライラが募っているようだ。「私の決定を尊重すべき」と繰り返し、ホームゲームでしばしば見られる、カッサーノ待望の横断幕やプラカードには怒りを露わにした。
もちろん、ここまでの騒動になって、リッピがカッサーノのことを気に留めていないということはないはずだ。しかし、このタイミングで呼ぶと、リッピには「世論に負けて招集した」という印象が残ってしまう。だからこそカッサーノは、周囲のプッシュが逆効果だと感じたのだろう。
イタリア代表が良いパフォーマンスをしていないことにも原因はある。さえないパフォーマンスのチームにカッサーノを投入した結果、試合が良い方向に変わってしまうと大変だ。チームにとっては良いことだが、リッピのプライドは…。
このプライドは、ときに必要なものだろう。威厳にかかわることだからだ。世論に負けて呼んだ選手が活躍したら、「監督の率いるチーム」という印象が薄れる。たとえリッピが心から招集を願っての決断だとしても、国民はそうは捉えない。「国民で選んだチーム」。そういう見方が生まれる。だとしたら、選手に対しても、世間に対しても、W杯優勝監督としての威厳を保ちたいと考えるのは自然なことだ。
そうは言っても、カッサーノが代表に招集されるべきプレーをしているのは事実。多くのイタリア国民は、そのタイミングを待っている。リッピはW杯優勝監督の経歴にふさわしい大物だ。もしかしたらW杯本大会でいきなり…という構想を描いているのかもしれない。しかし、観客の野次に冷静さを欠いているような現状では、その望みは薄そうである。
文/伊藤敬佑
