コラム:GKコーチの理想的な仕事とは?(後編)

『岡崎篤のメールマガジン』より特別寄稿
スペイン・バスク地方のゲルニカで、育成とトップチームのGKコーチを務めていたジョアン・ミレット氏。人口1万人程度の小さな町から、プロクラブで活躍するたくさんのGKを送り出したジョアン。その仕事の特徴については、「コラム:GKコーチの理想的な仕事とは?(前編)」で紹介した。

そのジョアンが今季から舞台を日本に移し、湘南ベルマーレの『アカデミーGKプロジェクトリーダー』として働くことになった。

湘南ベルマーレ: アカデミーGKプロジェクトリーダーにジョアン・ミレッ氏 招聘のお知らせ


果たしてジョアンはどのような仕事をここで成し遂げるのか?

今回はジョアンという人間を、スペインの周囲の人々、指導者仲間や教え子がどのように見ていたのか。彼らのインタビューをまとめた『岡崎篤のメールマガジン』から特別寄稿して頂いた。


【以下『岡崎篤のメールマガジン』より】

「ジョアンと個人的に知り合ったのはまだジョアンがゲルニカに来る前、カタルーニャに住んでいたころだよ。でも指導者として知り合ったのは彼がゲルニカに来てからだなぁ。びっくりした。だってとてもすごい指導をするんだから。だから僕が5年前にコーチングスクールのディレクターになったとき、すぐにジョアンにGK講師としてのオファーを出したんだ」

言葉の主はジョアンをよく知る指導者アルベルト・イグレシア氏(※)。

彼がどんな指導者なのか話を聞いてきました。

※アルベルト・イグレシアス 39歳
現ビスカヤ県コーチングスクール・ディレクター
同校インストラクター レベル3技術担当
<指導歴>
スペイン3部リーグ 2クラブ 2シーズン
スペイン4部リーグ 2クラブ 4シーズン
アスレティック・ビルバオ下部組織 5シーズン(U18、U15、U12)
※フェルナンド・ジョレンテ、アモレビエイタ、スサエタ等を指導


■技術に重きを置く

「彼は他のGKコーチとは全く違うよ。(どのように違うのですか?)そうだなぁ。僕もこれまで沢山のGKコーチを見てきたし一緒に仕事もしてきた。一般的な風潮としてはそのトレーニング法は日増しにグローバルになっているということ。そして彼らはたくさんの動きを一緒にトレーニングさせる。たくさんの量をこなさせる。でも、、改善はあまりしない。だから技術面から見れば、大きな成長がみられない。
 一方でジョアンの指導法は驚くほど細かい。キーパーに関する技術をミクロ単位までこだわる指導者だと言えるね。例えばシュートを止めるというキーパーの動作について誰よりも研究しているよ。各動作を細かく段階分けして指導するんだ。それはハイボールの処理しかり、1対1の対応しかり」


■反復に重きを置く

「そしてジョアンは反復をすごく重要視する指導者だ。時にはたった一つの動作を習得するために費やす時間がものすごく長くなることだってある。一つの動作を習得するためだけに、数週間と費やすことだってあるんだ。でも選手が一度それを習得してしまえば、その選手は見違えるような成長を遂げる。
 つまり。そうやって一つ一つの動作を丁寧にジョアンと一緒に学んでいったキーパーはね、技術的にそれはそれは恐ろしいくらいすごいキーパーになっているんだ。だからこのバスク地方ではジョアンの指導されたキーパーというだけでもう、一目置かれる。
 それは事実として現れてる。彼が8歳9歳くらいから育て上げたキーパーはアスレティック・ビルバオに行く。彼がユース年代から指導し始めたキーパーだって2部、3部、4部のトップレベルのクラブが獲得していく。そんな流れになってるんだ」


■厳格さ

「そして彼は非常にキーパーとの対話を重んじる。人間として愛情に満ちあふれた指導者だよ。しかし、練習ではとんでもなく厳しい指導者に変わる。だからゲルニカのキーパーはフィールドに立っているよりも、ずっと長い時間を練習に費やすことでも有名だよ」



また、ジョアンの教え子たちは、彼をどう見ているのか。

以下はゲルニカU-15、U-18、トップチームでプレーする選手はもちろんのこと、来季からスペイン2部でプレーするアルタミラ選手、アスレティック・ビルバオの下部組織でプレーするアイトール選手、スペイン代表のウルコ選手、RCDエスパニョールでもプレーしたイボン選手、その他にゲルニカを離れスペイン3部でプレーする選手たちが参加してインタビューを行った。


■普通じゃない

インタビューのはじめに、リーダー格の一人のキーパーが切り出しました。

「まず日本の方々に最初に知っておいて欲しいこと。それはこれまでゲルニカにはキーパーはいなかった(良いキーパーは輩出されなかった)ってことだよ。でも10年前に彼が来てからというもの、、、各年代で1人ずつ。いや1人じゃない。各年代で2、3人とサッカーの世界でお金を稼ぐキーパーが出てきている。俺は24歳だ。ジョアンがみっちり教えたキーパーの中の最初の年代だよ。俺たちの町はたった1万5千人の “大きな”村。去年のアスレティックのユースのキーパーは2人ともゲルニカ出身だったんだ。これって普通なことじゃないよ? アイツ(ジョアン)が何か、しでかしてるとしか考えられないでしょ」


■“安心感”と“技術”

こんな質問をしてみました。キーパーにとって最も大事なものは何だと思いますか?

「チームに安心感を与える存在であるかどうかが一番大事だよ。それがキーパーに最も求められていることだよ。そこには強烈な個性だって絶対に必要だ。適度に狂ってなきゃできない仕事だよね。
 でもね、その裏付けとなるのはやっぱり技術だよ。だからジョアンの育てたキーパーは良いキーパーなんだ。だってジョアンは誰よりも技術に最大限の重きを置いている。そしてそれを教え込む術を知っている。GKの正確な技術がチームに安心感を与えるんだ」

別のキーパーが話します。

「問題は、ジョアンと一緒に過ごした後、他のチームへ行った時だ。すごく辛いんだ。長い間ジョアンと共に技術を磨いてきた後、他の場所へ行く。するとそこでは全く違ったシステムで練習が行われてる。2,3カ月だったらどうってことないよ? そんなすぐに習慣や技術ってのは失われないんだから。でもそれが1年、2年と過ぎていったら大変だ。技術にどんどんサビがきちゃう。もちろん毎度激しい練習はしてるからさ、体力的には衰えないよ? でも、、技術は少しずつさびてくる。辛い気持ちになるよ」


■なぜ・Porque(ポルケ)~

ジョアンと他の指導者との違いについての質問をしてみました。この質問を投げかけた瞬間、あるキーパーがボソっとつぶやきました。

「そんなのむちゃくちゃあるよ、、、、、。」

そんなたくさんある違いの中でも大半が口をそろえて答えてくれたのがコレです。

「常に理由を伝えてくれることかな。すべての動きの理由を僕たちに説明する。そして今やっていることは試合中のどの状況で起こるのかもしっかり伝えてくれる。それからはじめて、トレーニングが始まるんだ。一方レサマ(アスレティック・ビルバオの総合練習場が所在する村の名前)ではそこまでなぜそうするべきなのかを教えてはくれない。
 その他のクラブでもそうだと思うけど、レサマの人たちにとって大事なのはパフォーマンスを維持するため、フィジカルコンディションを維持するためにトレーニングを行うこと。だから色々なトレーニングを行うんだ。でもね。毎度テーマが変わるから、技術を少しずつ積み上げて行くって感じじゃないんだよね」


■バルサのキーパーも

実はもう一人のキーパーにインタビューを行いました。その名もジョアン・フェルナンデス(14歳)。彼は今、FCバルセロナのカンテラでプレーしています。

この夏のオフシーズンを利用して、ジョアンがゲルニカで開く夏のクリニックに参加するためにやってきました。彼は言います。

「ジョアンは練習メニューをこなさせるコーチじゃないんだ。彼は確かな理論をもってして、キーパーとはどうあるべきかを一から教えるコーチなんだ。基礎の基礎から教えてくれる。どうやって手を構えるのか。どうやってキャッチするのか。どうやって転ぶのか
(それはこれまで教わったことはないんですか?)ないよないよ。手をどこにセットするかなんて、これまで一度も教わったことない。
(日頃バルサではどんなトレーニングを行っているのですか?)ウォーミングアップをして、ボールを軽く触って、早速メニューをこなしてくんだ。パス&コントロール、シュート、、、etc。コーチたちは転び方が良くないだとか、そういう視点では指導はしてくれないんだ。「グワッと伸びろ!うまく転ぶんだ!」ってそんな感じで言われるかなぁ。ジョアンみたいな指導はされてないよ。僕が思うにジョアンが教えていることっていうのは、キーパーにとってとても重要なことだよ。ジョアンみたいな人には会ったことがないよ」


■最も大事なこと

インタビューの終盤。それまでほとんど発言することがなかったキーパーが回想しながら話を始めました。

「なぜ俺たちがアイツと一緒に居たいか? その理由はね、たぶん、その理論だけではないと思うんだ。アイツの理論や練習メソッドは天下一品だよ? でもそれ以上に、アイツはね、いつも俺たちのそばに居てくれるんだよ。たとえば、俺はアスレティック・ビルバオの下部組織で4人のキーパーコーチと時間を過ごしたわけ。でも、一度たりともしっかり対話したことがないよ? 「おー元気か? 今日の練習はこれだぞー、、、」ってこれくらいの会話はあるよ? でもそれ以上はない。練習が終わって、、挨拶をして、、、それで終わりだよ」

別のキーパーも続きます。

「確かにそうだ。一度シーズンが終わってチームを離れちゃえば、それでほぼ関係は切れちゃうんだ」

別のキーパーが言います。

「アイツは俺たちのお父さんみたいなもんなんだ。いつまでたっても俺たちのそばにいてくれる。辛いときもずっと対話してくれる。だから安心するんだよな。それってキーパーがパフォーマンスを維持する上でもすごく大事なことだよ」




インタビュー/岡崎篤
ビルバオ市在住のサッカー指導者。大学では体育・スポーツ科学を専攻。現在はユースチームの監督をしながら、指導者ライセンスを取得中

出典:『岡崎篤のメールマガジン』
http://www.mag2.com/m/0001383930.html