「率直に言って脱帽さ!」酒井宏樹がマルセイユの宝になるまで【現地記者分析】

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昨夏、マルセイユに加入した酒井宏樹は「財政難が理由でやってきた選手の一人」と見られていた。だが、あれから1年、彼に対する見方は大きく変わった。日本人サイドバックが過ごしてきた日々を、現地記者が振り返る。

昨夏、酒井宏樹がマルセイユへ加入するという一報は、特にオールドファンを中心に驚きと興奮を持って受け止められた。マルセイユといえばフランスの名門中の名門だ。リーグ・アン制覇9回、クープ・ドゥ・フランスの優勝は10回、チャンピオンズリーグを制したこともある。

もっとも、一方でその栄光は過去のものだった。近年のマルセイユは優勝争いから遠ざかって久しく、2015−16シーズンに至っては13位に低迷していた。酒井はすっかり“古豪”という枕詞が定着してしまったクラブ……あるいは前年13位のチームに加入したに過ぎなかったわけだ。

そんな環境の中で、酒井はこの1年、着実に評価を高めてきた。不動の右サイドバックとして、何度もスタッド・ヴェロドロームをわかせてきた。今ではリーグ・アン全体においても、一目置かれる存在となっている。

では実際のところ、酒井は現地でどのような評価を受けているのだろうか? 現地で記者を務めるマキシム・マリン氏が、日本人サイドバックの過ごした1年を振り返る。

■懐疑的な存在からマルセイユの宝へ

マルセイユが2016年の夏に行った補強は、かなり貧弱なものであった。当時はクラブ買収が決まる前で、深刻な財政難に陥っていたからだ。マルセイユは名門どころか、凋落したクラブの象徴のような状況にあった。

酒井の獲得は、ある意味で当時のマルセイユを象徴していたと言える。ブンデスリーガ2部に降格したハノーファーからやってきた日本人サイドバックは、何より低コストで獲得が可能だった。最も懸念されたポジションではあったものの、背に腹は代えられなかったわけだ。

しかし、10カ月後の今日、酒井はあらゆる疑念を払拭してみせている。他の新加入選手が振るわない中、不動の右サイドバックとしてマルセイユになくてはならない存在となっているのだ。

スペインからイタリアに活躍の場を移しても躍動を続けるダニエウ・アウヴェスとまでは言わない。だが、シーズン当初の苦労を乗り越え、合格点以上の成績を残して1年目を終えようとしている。

まさに、サプライズだった。昨夏、高い評価を受けていたブリス・ジャ・ジェジェや、アトレティコ・マドリーが所有権を持つハビエル・マンキージョがクラブから去ったときには想像もしなかったことだ。

酒井には当初から懐疑的な視線が向けられていた。ブンデスリーガで4シーズンを過ごしていたとはいえ、フランスで活躍できるかどうかは別問題だ。しかもチーム自体がここ数年、不振にあえぎ、均整が取れていなかったのだから、新天地で活躍するためのハードルは決して低くなかった。

だが、酒井は真面目で熱心でタフという極めて日本人的な特徴をピッチ上で示し、チームにとって不可欠な選手となった。数字は嘘をつかない。彼の戦績……例えばリーグ・アンで34試合に出場し、うち33試合で先発出場しているという事実を見れば、いかに重要な選手かが分かるはずだ。

昨夏、スタッド・ヴェロドロームに懐疑的な視線が飛び交っていたことは確かである。しかし、苦しい時期を乗り越えた今、酒井はマルセイユの宝となったのだ。

■「君は僕のために戦ってくれる戦士だ」

彼の活躍を示す指標になるのは、なにも数字だけではない。もし彼の評価を知りたいなら、チームメートたちの声に耳を傾けてみることだ。

特に右サイドの相棒フロリアン・トヴァンは、酒井に絶大な信頼を寄せている。

「サカイのおかげで良いシーズンが過ごせたと言うのは、恥ずかしいことではない」

トヴァンはそう断言し、さらに続ける。

「僕のために、彼は何でもしてくれる。守備も攻撃もこなすし、ピッチを縦横無尽に走りまわるんだ。彼には『君は僕のために戦ってくれる戦士だ』と言っているよ。率直に言って、脱帽さ! 彼とプレーできて、とても幸せだ。彼が大好きだよ。マルセイユに来るまでは彼のことを知らなかったけど、今年一緒にプレーして、心底素晴らしい選手だと驚いているんだ」

リュディ・ガルシア監督も、酒井を高く評価している一人だ。彼はシーズン途中からチームを率いるという難しい状況に直面した。非常に難しいミッションに挑む中、常に右サイドに勤勉なプレーヤーがいたというのは幸運なことだった。

酒井はドイツ語ほど、うまくフランス語を話すことができない。日本でも香川真司や岡崎慎司ほどのスターというわけではないだろう。

だが、彼のプロ意識の高さはとても有名だ。困難な時期を迎えるマルセイユの中で困難な時期を乗り越え、重要な選手となった。

シーズンが終われば、彼より有名な右サイドバックの加入が発表されるかもしれない。安住の地だった右サイドバックのポジションを荒らされ、再び戦いの日々を過ごさなければならなくなるかもしれない。新しいシーズンをベンチで迎えることになる可能性もあるだろう。

しかし、どんな未来が待っていようと、酒井がどんな1年を過ごすかは目に見えている。地中海沿岸の美しさに魅了されたサムライは、来シーズンも全力でプレーすることだろう。それは彼が、この10カ月で示してきたことなのだから。

文=マキシム・マリン/Maxime Marin

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