泥にまみれて輝くマドリー、ベルナベウは再び魔法に包まれるか/CL決勝Tプレビュー

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今季は不調にあえぐマドリーに残されたタイトルはただ一つ、チャンピオンズリーグだ。一度王者としての矜持を捨て去った白い巨人が、泥にまみれながらベルナベウでパリ・サンジェルマンを迎え撃つ。

1月24日、レアル・マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウの屋根部分に取り付けられた電光掲示板には、1−2というスコアが示されていた。その下にあったのは、失望のため息と怒りの指笛、そしてコパ・デル・レイ準決勝進出を決めたレガネスの歓喜。マドリーを見に来た人々は試合が終わるのを待つことなく家路に着き始め、一方アウェースタンドの人々は偉業を成し遂げたレガネスともに喜びを分かち合っていた。マドリディスタスの神殿は、朽ちかけているようだった。

リーガエスパニョーラではバルセロナに早々に大差を付けられ、チャンピオンズリーグ出場権獲得が焦点に。そのために獲得すべきタイトルとなったコパも指の間からすり抜けた。昨季にチャンピオンズリーグ連覇とリーガ優勝達成したジネディーヌ・ジダン率いるレアル・マドリーは、もはや手「を」付けられないチームのように扱われたが、勢いの方向を逆にした今季は手「が」付けられないフリーフォール真っ只中のチームのように捉えられた。

Levante Real Madrid LaLiga 03022018

■ジダン・マドリーの凋落、その背景

ジダン・マドリーの凋落は、いつから忍び寄っていたのか。それは昨夏のプラニングが、もっと言えば、昨季に絶対王者となったときに生まれた慢心がしからしめたのかもしれない。

昨季と今季の陣容について言及すれば、ジダンが主力と捉えている選手たち、それ以外の選手たちの質は異なる。昨夏には契約延長交渉が決裂したペペ、出場機会に不満を持っていたアルバロ・モラタ、ハメス・ロドリゲスがこのクラブを出て行ったが、代わりに加入したのはダニ・セバジョス、テオ・エルナンデス、ヘスス・バジェホ、ボルハ・マジョラルと21歳以下の将来有望な若手ばかり。昨季、選手層の厚さによって実現に至り、革命的とも持て囃されたプランAとプランBの使い分けは、今季に入って機能しなくなってしまった。

Alvaro Morata Chelsea

James Rodriguez Mainz 05 FC Bayern

そして主力選手たちを使ったピッチ上でのパフォーマンスについても、今季に陰りが見えた。スーペルコパ・デ・エスパーニャのセカンドレグ、レアル・マドリーは9年ぶりにバルセロナにボールポゼッション率で勝り2−0で勝利し、ジェラール・ピケに「マドリーに上回られたという感覚を初めて植え付けられた」と言わしめた。しかし、いざリーガエスパニョーラが開幕してシーズンが本格化すると、ピケの完敗宣言を導いた華麗なはずのパス回しは、絶対王者を前にモチベーションと警戒心を最大限にまで高めつつ、後方に引いて守る相手を崩し切るものにならなかった。

今季のマドリーはトランジションで優位な局面を形づくろうとせず、イスコをはじめとした個人頼みの攻撃を仕掛ける場面が目についた。絶対王者の矜持と言えば聞こえはいい。が、それでは個々の力を生かし切ることはできず、強引にフィニッシュまで持ち込もうとして「ボールがゴールに入りたがらない」現象が生じることに(ゆえにクリスティアーノ・ロナウドのただ押し込むだけでいいゴールは見られない)。そうしてゴールが決まらない焦りから過剰なまでに前のめりになり(土壇場でゴールを決めてきたモラタはもういない)、相手のカウンターの餌食となってきた。

■ジダンというカリスマの価値は変わらず

ZIDANE VALENCIA REAL MADRID LALIGA

こうしてマドリーに残されたタイトルは、チャンピオンズリーグのみとなった。クラブ史では12回、ジダン政権下では2シーズンで2回優勝と、蜜月関係にあるこの大会がジダン・マドリーの黄金期の終焉、または継続を宣言することになる。しかし、もしマドリーがまだ踏ん張ることが、ここから浮上することができるとしたら、それはやはりジダンという存在によってだろう。ジダンは昨夏の移籍市場はもちろん、この冬にもケパ・アリサバラガの獲得を拒否するなど、現陣容の主力選手たちにチーム内競争を強いようとはしなかった。それは今回のクライシスを導いた要因であると同時に、選手たちから決して揺るがぬ信頼を寄せられている要因でもある。

「ジダンを疑問視するなど、狂っているとしか言いようがない。彼こそが、考えられる上で最高の監督だ」(ルカ・モドリッチ)

「こういう状況で監督を交代しても、良いことにはならないんだ。それにジダンは、自分の人生と密に絡んでいる監督なんだよ」(セルヒオ・ラモス)

「彼は素晴らし過ぎる監督だ。落ち着きがあって、自分の仕事を信じている。そして僕たち選手は、彼が言うことを信じている。僕たちは最後の最後まで、彼とともにある」(マルセロ)

チームの重鎮たちはジダン政権の簒奪を決して許さない。解任論が出たレガネス戦の後、声を上げたのは選手たちだった。練習前のミーティング、彼らは自分たちが練習でも試合でももっと力を出せること、ここから巻き返しを図り、ジダンを結果によって守る意思を示したのだった。

■改善するパフォーマンス

決勝トーナメント1回戦、パリ・サンジェルマンとの対戦が近づくとともに……、と言うよりも泥にまみれながらも光を求め続けたことで、マドリーは1月の終わり頃からフリーフォールを終えたような印象を与えている。ジダン、助監督ダビド・ベットーニらをはじめとしたコーチ陣は、選手たちの熱意をチームとしてのパフォーマンスの向上につなげたようだ。それはガレス・ベイルの復帰とともに、1−4−3−3システムをもう一度使い始めた時期と重なるが、現在のチームは以前のような縦に速い攻撃を意識的に行い、良い形でシュートまで持ち込めるようになった。クロスを入れるにしても時間をかけず、待ち受けるC・ロナウドらはファーサイドで相手DF陣と数的同数の中で競い合うことを意識。選手たちのフィジカルコンディションも、上向きになったように思える。

ジダンは公の場で「点が決まれば流れが変わる」と話していたが、実際のところ彼らは絶対王者という矜持を一度捨て去り、野心を取り戻して再出発を果たしたように見える。……あとはベンゼマが攻撃の組み立て以外のタスクであるゴールを取り戻し、軽率な守備のミスさえなくなれば、というところか。

■ベルナベウは魔法の夜を取り戻す

Estadio Bernabeu, Madrid, 25042017

冒頭に描写したレガネス戦以降、ベルナベウの雰囲気は変わった。チーム紹介アナウンスでジダンの名が叫ばれるとスタンドの一部から指笛が吹かれ、少しでもパフォーマンスが停滞すると野次が飛ぶ。南スタンド1階で応援の音頭を取るファンス・RMCFの掛け声が、ほかのスタンドに伝染することはない。だがしかし、チャンピオンズの決勝トーナメントは、このスタジアムにとって特別なものだ。それはどんな危機的状況でも、見込みがない状況でも関係なく、これまでずっとそうだった。「コモ・ノ・テ・ボイ・ア・ケレール(どうして愛さずにいられようか)」「アスタ・エル・フィナル、バモス・レアル(最後まで、行こうぜレアル)」「アシ、アシ、アシ・ガナ・エル・マドリー(マドリーはこうやって勝つ)」。こうしたチャントとともにスタンドは物理的にも揺れ、いくつもの魔法の夜が演出されてきたのがベルナベウ。ジダン・マドリーは次のPSG戦で、再び魔法の恩恵を預かる。

「私のマドリー監督としての日々は、いつか終わる。ずっと勝ち続けられるわけじゃない。しかし、この目に映るチームには、まだ未来があると確信している。セルヒオやクリスティアーノら年長の選手たちが昨季に成し遂げたことに鑑みれば、何かを心配する必要はない」

ジダンは昨年末に出版されたレアル・マドリーのオフィシャルブック『ラ・レジェンダ・コンティヌア(La Leyenda Continúa、伝説は続く)』とのインタビューでそう語った。その本の表紙では、セルヒオ・ラモスがビッグイヤーを掲げている。伝説は果たして、本当に続くのか--ジダンと選手たちがこれまでに体現してきたマドリディスモの根幹たる不撓不屈の精神、「アスタ・エル・フィナル、バモス・レアル」の韻を踏んだチャントの意味が、ここから試される。これまでベルナベウを彩ってきた劇的な逆転勝利よろしく、白いチームは泥にまみれ、そこから輝かなければならない。

文/江間 慎一郎 (@ema1108madrid)

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