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【森岡隆三が見る】イングランドを追い詰めたクロアチアの攻撃の圧/準決勝戦評

■守備に絶対の自信を持つイングランド

イングランドの基本フォーメーションは3-5-2。全員がプレミアリーグに所属し、前線には、プレミアリーグで、ここ4年で105ゴールを挙げた若きストライカー、ハリー・ケイン(トッテナム)をはじめ、若いタレントが揃い、守備ではマンチェスター・シティのプレミア制覇に大きく貢献した若きディフェンスリーダー、ジョン・ストーンズを中心に、基本スタイルは堅守速攻型。ロシア大会ではこの準決勝を含めた全得点12のうち9得点がセットプレーと手堅く勝負強い印象のチームです。

一方、クロアチアの基本フォーメーションは4-2-3-1。世界各国のリーグで活躍するビッグネームの中でも、バルセロナとレアル・マドリード、世界を代表する2つのビッグクラブの心臓、イヴァン・ラキティッチとルカ・モドリッチを擁する攻撃陣は、万能ビルドアップ型であり、全12得点のうち流れの中からが9得点と多彩かつ積極的。対照的なチーム同士の対戦となりました。

試合は序盤から大きく動きます。前線からボールを奪いに来るクロアチアに対し、ロングフィードを使い、全体を押し上げ、セカンドボールを回収して攻撃につなげるプランのあったイングランド。先制点はまさにセカンドボール回収に成功したところで得たフリーキックから生まれました。時間にして開始5分、キーラン・トリッピアー(トッテナム)が見事に決め、先手を取りました。

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イングランドは守備時、自陣で、3-5-2から5-3-2もしくは5-3-1-1のブロックを形成。3バックシステムを使い、自陣でしっかりとしたブロックを作るチームの多くは、5-3-2ではなく5-4-1のブロックを形成します。その理由の一つは、中盤3人でピッチの横幅68mを守る、スライドするのはかなり厳しく、中盤3人の脇を使われたくないので、4人を並べ、スペースを埋めたくなることが挙げられます。

しかし、イングランドはアンカーのジョーダン・ヘンダーソン(リヴァプール)を中心に、中盤3人の運動量と、守備範囲の広さ、そして何より、例え脇のスペースからクロスを上げられたとしても、そこはストーンズを中心とした3センターバックがきっちりはじき返す、という絶対的な自信からの5-3ブロックなのだと思います。

その代わり前線に2枚を残すことで、クロアチアのDF陣にプレッシャーを与え、時折カウンターが決まってチャンスを生み出すことに成功。そこには、自分たちの色である最前線のハリー・ケインとラヒーム・スターリング(マンチェスター・シティ)の高さ強さスピードを生かして点を奪いに行くんだという意図が見えました。

■万能ビルドアップ型のクロアチア

イングランドのシステム、スタイルに対する策として、クロアチアの取ったゲームプランは、しっかりボールを保持するビルドアップ型の攻撃、そして守備は早い切り替えで前線から、という、彼らのいつも通りのスタイルを、さらに特化して臨むというものだったと思います。

マルセロ・ブロゾビッチ(インテル)をアンカーにしたのもその一つでしょう。モドリッチとラキティッチがその前に2シャドーとしてポジションを取り、4-2-3-1から4-3-3にすることで、中盤でよりしっかりとボールを保持すること、そしてイングランドの3MFの脇、サイドでうまく基点を作ることが狙いであったと思います。

ラキティッチ、モドリッチが高めのポジションを取ることで、右サイドでは、MFのアンテ・レビッチ(フランクフルト)、右SBのシメ・ヴルサリコ(アトレティコ・マドリ―)、左ならばイヴァン・ペリシッチ(インテル)、イヴァン・ストゥリニッチ(サンプドリア)と三角形を作ります。

3MFの脇サイドで先手を取ると、そのサイドの起点の攻撃を嫌ったイングランドの5-3の5のワイドが食いつく。すると今度はその背中、サイド深いスペースをうまく使います。

イングランドの左MFデレ・アリ(トッテナム)、右ジェシー・リンガード(マンチェスター・ユナイテッド)が対応に追われれば、アンカーのジョーダン・ヘンダーソン(リヴァプール)の負担が増える。そのためクロアチアはディフェンスラインと中盤の間もよりうまく使えるようになり、イングランドの守備陣を徐々に疲弊させていきました。

5-3の3の横のスペースを攻略し始めた中、68分、右サイドからシメ・ヴルサリコ(アトレティコ・マドリ―)がアーリー気味にクロスを上げると、大外から走り込み、ウォーカーがクリアする寸前に鼻先で合わせたのはイヴァン・ペリシッチ(インテル)。

イングランドの守備が整っているところを、素晴らしい質のクロスに2人のDFを出し抜いた入り方、オフの動きの質、完膚なきまでに「質」で抜いた、見事なクロアチアの同点ゴールでした。

1点リードしていたイングランドの後半のプランは、前半と同じくしっかり守ってカウンター、もしくはセットプレーでチャンスを作ることだったと思います。

クロアチアは攻撃のテンポを上げ、前線はより流動的に、多彩な攻撃を繰り広げてはいたものの、さすがに堅いイングランド守備陣攻略できない。と思っていた矢先に生まれた一本の「質」。5-3のブロックで脇からクロスを上げられたとしても、中が整っていれば大丈夫、というイングランドに対して、クロスの質と中の入りの質で見事に上回ったクロアチアのゴール。勝負の醍醐味が詰まった同点弾でした。

2018-07-11-croatia-england-perisic-goal(C)Getty Images

試合を決めたクロアチアの追加点も見事でした。

延長後半4分(109分)、ヨシップ・ピヴァリッチ(ディナモ・キエフ)のクロスをウォーカーが足に当ててクリア。高く浮いたボールにペリシッチがヘディングで合わせ、ペナルティーエリア内にボールを送ると、そこに反応したのがマリオ・マンジュキッチ(ユベントス)。ストーンズの背後から抜け出して、左足で見事なゴールを決めました。

イングランド守備陣としては人数はそろっていましたし、ラインも整っていました。でも一瞬、ほんの一瞬、最悪を想定していなかった。ヘディングの折り返しがまさかこんなにいいボールがくるとは思わなかったのかもしれません。延長に入り集中力が薄まったのかもしれません。いずれにせよ、同点に追いつき勢いを増すクロアチアの圧力に疲弊させられていたのは間違いないでしょう。

■両監督の先発含めた采配の駆け引き

ノックアウトステージともなると、体にはだいぶダメージが来ていると思います。イングランドは4枚代えたあとにトリッビアーが動けなくなってしまった。残り数分でしたが、得点を取りに行くにはあまりにも痛い状況となってしまいまいた。

イングランドは、システム、スタイル的に、かなり運動量を求められる3MFの中でも、両サイドのアリとリンガードの2人の運動量は間違いなくこのゲームのカギでした。

そんな中、交代カードの1枚目は最前線のスターリング。2枚目のカードはアシュリー・ヤング(マンチェスター・ユナイテッド)。そして3枚目はヘンダーソン。現場で見ていると疲労度もまた違うのでしょうが、ギャレス・サウスゲート監督は、リードされるまで、あくまでも5-3-2を変えなかった。リードしている時、もしくは同点でスターリングを代えた時に、ケインを1TOPにして5-4-1でより強固な守備をとのプランもあったはず。しかしそうはしなかったところに、サウスゲート監督の駆け引きと、このスタイルに対する確固たる信念を見た気がします。

一方のクロアチアは、この試合で、マルセロ・ブロゾヴィッチを先発起用しました。

起用の意図としては前述したように、相手のシステム、スタイルに対して4-2-3-1ではなく4-3-3にすることで自分たちでボールも主導権もいつも以上に握ること。クロアチアのズラトコ・ダリッチ監督は、並びを変えることで変化をもたらし、徐々に徐々にイングランドに圧力を掛けていきました。

1点先制されはしましたが、内容にも手ごたえがあったのか、延長戦のことも見越していたのか、後半同点に追いついたあと20分以上あったにもかかわらず、90分が終わるまで1人の交代もしなかった。逆に延長ではゆとりの采配につながった。このあたり、采配の駆け引きも要注目でした。

2018-07-11-croatia-england-southgate-dalic(C)Getty Images

またイングランドは自国リーグであるプレミアリーグの特徴を存分に生かした堅い守備に速い攻撃、カウンター、自分たちの自信のあるスタイルを貫きました。伝統の4枚から3枚で臨んだ今大会ですが、欧州予選から堅守速攻をベースにこのゲームでも相手に合わすことなく自分たちの戦いを貫きました。

一方、4-2-3-1という基本ベースはありながらも、ラキティッチ、モドリッチという世界を代表する中盤を擁して、柔軟に戦い、システム特性をうまく生かしてリズムを上げ、多彩な仕掛けをしたクロアチア。

そのクロアチアに対し、イングランドは完全に崩されてないにもかかわらず、2失点を喫した。守備のブロック、バランスが整った中でやられた2失点。特にダメージの大きかったであろう1失点目を生んだのは、間違いなくクロアチアのゲームプランとゲームメイクであり、それを実行できる選手のクオリティーに他ならないでしょう。

お互いの色を出し合い、戦術面でも見どころ満載の一戦、まさにW杯準決勝にふさわしい戦いだったと思います。

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