マルセイユの組織的な“ネイマール対策”にヒントあり…酒井宏樹が語るW杯への手応えとは

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マルセイユで確かな地位を築き、日本代表でも絶対的な存在となりつつある酒井宏樹。決して楽な組み合わせではないロシア・ワールドカップだが、自信もあるという。その根拠はどこにあるのだろうか。

いよいよ迎えたワールドカップイヤー。果たして日本代表はロシアの地で確固たる結果を出すことができるのだろうか。

そのクエスチョンにポジティブな回答を出したのは、日常からフランスのリーグ・アンでワールドクラスのアタッカーと対峙している酒井宏樹(マルセイユ)。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の下、日本代表の右サイドバックとして出場を続ける彼がワールドカップを勝ち上がるためのポイントに掲げたのは、チームと個人の双方における“世界との戦い方”だった。

では、なぜ彼は明確に前を向けるのだろうか。その言葉を順に紐解いていこう。

12月1日に行われたロシアW杯の組み合わせ抽選会。グループHに組み込まれた日本は、コロンビア、セネガル、ポーランドの順に対戦することが決定した。

「コロンビアだけじゃなくて、ポーランドもセネガルも絶対に強い。ポーランドは(ロベルト)レヴァンドフスキしかクローズアップされていないけど、モナコでプレーする(カミル)グリクもいる。ただ、強いチームと10回対戦して、1~2回は勝てるのがサッカーというスポーツ。それを俺たちがワールドカップでできるかどうか」

■番狂わせに自信あり

酒井がこう語るのには理由がある。2012年に行われたロンドン・オリンピックのグループステージ所詮で、優勝候補の一角だったスペインを撃破した成功体験があるからだ。

「あの時も日本とスペインの実力差は歴然としていました。スペインは優れた選手ばかりで本当にいいチームだったけど、実際にああいうことが起こり得た」

確かにこれまでもビッグトーナメントにおいて世界に衝撃を与えるサプライズが起こった例は少なくはない。日本は1996年のアトランタ五輪でタレントぞろいのブラジルを破っており、2002年の日韓W杯では前回王者のフランスが開幕戦でセネガルに星を落とした。2010年の南アフリカW杯ではヨーロッパチャンピオンとして臨み、のちに同大会を制するスペインが初戦でスイスに敗れている。

そして今大会、日本が初戦で対戦するのはコロンビア。2014年のブラジル大会のグループリーグ第3戦で決勝トーナメント進出を懸けて戦い、1-4の大敗を喫した相手でもある。この試合をベンチで見守っていた酒井の脳裏にも、コロンビアの破壊力は鮮明に焼き付いている。コロンビア相手となる初戦でロンドン五輪の再現が果たして可能なのか。その問い掛けに、彼は「あると思いますよ」と言い切った。

「ブラジルW杯のコロンビア戦は3-0で勝たなければいけない特殊なシチュエーションだったからあんな試合になりましたけど、第1戦のフラットな状況で戦えるのは悪くない。今回はブラジルW杯のような試合にはならないと思います。でも、それには相手の強力なアタッカー陣を抑える必要がある。いくら日本がいい試合をしていても、彼らはたった一回のチャンスで決め切ってきますから。そうなると、やっぱりどれだけ準備ができるかが大事になる」

■欧州遠征では準備の差が結果に

準備段階の大切さを痛感させられたのが、昨年11月のヨーロッパ遠征だった。ブラジルに前半だけで3点を奪われ、酒井が「精神的にも戦術的にも肉体的にも、すべての準備が足りていなかった」と振り返った文字どおり完敗を喫した試合だ。

「前半は守り方がハッキリしていなかったし、うまく守れている感じもなくて、ボールをずっと支配されていました。でも、前半が終わって、みんなが一度リラックスして、ちょっと精神的に準備ができただけで全然違った。相手のスピードにも慣れ始めて、少しずつ自分たちのプレーができるようになったんです。もちろんブラジルの選手の動きが落ちたと言う人もいると思いますけど、ブラジル代表の選手が『落ちた』と言ってもトップレベルですし、あのユニフォームを着て“セレソン”と飛ばれている選手たち。力を抜いてプレーする選手は絶対にいないと思います。あのブラジル戦は本当に良い経験になりました」

そしてブラジル相手の大敗からわずか4日後。ブルージュで行われたベルギー戦で、日本は全く違う姿を見せることになる。

実はブラジル戦を踏まえた修正を図る上で、日本代表には練習環境に恵まれない状況が重なっていた。練習グラウンドのピッチ状況と照明設備に問題を抱えていただけでなく、練習中に強烈な雹が降るなど、様々なアクシデントに見舞われていた。その劣悪な環境下にもかかわらず一変できた理由は、ブラジル戦を教訓にした周到な事前準備があったからだ。

「選手間でコミュニケーションを取って、プレッシャーを掛ける位置を確認し、相手の出方に対してどう対処するかをあらかじめ準備できていたんです。だから、ベルギー戦は試合中に起きたハプニングにもそれほど頭を使わずに対応できたし、そのおかげでみんなが体力を消耗しなかった。守備ってそういうものなんですよ。どれだけ“引き出し”を持っているか。そうすれば試合中に焦らないで済みますから」

もちろん事前準備を周到に進めただけで勝利を手繰り寄せられるほどコロンビアは簡単な相手ではない。それは酒井自身も承知である。「勝つには強力なアタッカーを抑える必要がある」と述べるように、ハメス・ロドリゲス(バイエルン・ミュンヘン)、ラダメル・ファルカオ(モナコ)といった強烈な個の能力を有するコロンビアのアタッカーをいかに封じることができるか。そこではマルセイユを例に出し、「相手が嫌がる守備」の重要性を説く。

「リーグ・アンでは個の力で勝負を仕掛けてくるアタッカーが多い。だから一対一の状況を作られると、まあ負けてしまいますね。足技とかフェイントがうまいというよりも、間合いの取り方。ちょっと寄せたら“トン!”と置いていかれるし、待ち構えて引いていると、そのままズルズル入られてしまう。ただ、マルセイユの選手はみんな個々の能力が高いだけでなく、彼らはチームとして勝つには何が必要か、勝ち切るにはどういうプレーをすべきかを実践できるんです」

「例えばパリ・サンジェルマンとの試合で、僕らはネイマールに対してかなりタイトにマークをしました。フロリアン(トヴァン)が『抜かれてもいいから』というくらい思い切ってネイマールに当たりにいき、ネイマールが抜こうとしてちょっと大きくボールを出したところに俺がガツンと寄せて止める。細かいところですけど、マルセイユの選手は勝つためにそういう守備の部分も徹底してやりますし、PSGとの試合で最終的にネイマールが退場することになったのも、俺たちが相当ガツガツいったからですしね」

2017-10-22-sakaihiroki

トヴァンと酒井が仕掛けたマルセイユの攻撃的な守備をネイマールは明らかに嫌がり、それが次第に苛立ちへと変化していった。もしかしたら11月のブラジル戦でネイマールがバランスを崩した拍子に酒井の頭を小突いたのは、リーグ・アンで退場へ追い込まれた“仕返し”の意味合いが込められていたのかもしれない。だが、酒井は極めて冷静だった。「もし自分が気性の荒い選手だったら、ブラジル戦でネイマールに詰め寄って、逆にカードが出されていたかもしれないですね」と笑って話す。そこはネイマールの思惑どおりにはいかなかったということだ。

「相手をケガさせるわけではないですけど、相手が怖がるような、嫌だなと思うような守備をしなければいけない。ガツガツと当たりに行くこともそうだし、意味のないところで身体を当てたり。海外ではそんなことがいっぱいありますからね。だからビデオ判定が導入されたんでしょうけど、日本人の知らないところで見えないファウルは山ほどしていますし、それも戦術なんだと思います。そういう部分はマルセイユに来て学びました」

マルセイユ移籍後の昨年夏以来、酒井には守備面の急速な成長が見られる。リーグ・アンで個の能力を前面に押し出したアタッカーとの対峙が成長の要因だと思われがちだが、実はアタッカーと勝負する局面そのものよりも「(相手のアタッカーに)ボールが渡った時にはもう勝ち負けは決まっている」のだという。

組織として、いかに自分たちが事前に準備してきた守備の形に持ち込めるか。つまり自分たちが勝てる局面を作り出せるかが重要だと話す。そしてマルセイユの能力の高い選手たちが勝負に徹しながら、相手の嫌がる守備を実践している中で、酒井の守備に対する根本的なメンタリティが変化し、それに伴い守備能力が磨かれていった。酒井自身も「フランスに来るまで“守備”というものを全然知らなかった」と自分自身を評している。

「本気でコロンビアに勝とうと思ったら、メンタルから変えていかないと。日本はボールポゼッションを好む傾向にありますけど、ポゼッションにこだわらないで勝ちに徹することができるかどうか。ポゼッションと言っても、ブラジルW杯で日本はギリシャの堅守を崩せなかったし、決勝トーナメントに進んだのは現実主義のギリシャのほうでしたから」

直近で思い出されるのが、昨年9月の出来事だ。キリンチャレンジカップへ臨むメンバー発表会見でハリルホジッチ監督が発した言葉である。指揮官はUEFAチャンピオンズリーグのPSGとバイエルン・ミュンヘンの一戦を引き合いに出し、ポゼッションで大きく下回りながらデュエルで上回ったPSGがバイエルンを3-0で下した一戦について熱の入ったスピーチを見せている。印象的だった当時のコメントを紹介しておく。

「ポゼッションのみでは全く意味がない。モダンサッカーではゲームプラン、ゲームコントロール、そういったものが重要。引いてブロックを作って深い位置で守ることも一つ。パリ・サンジェルマンはそれを利用した」

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今回、酒井がリーグ・アンの戦いの中で体感した「勝負に徹すること」は、まさに現実主義を意味している。これに加えて「相手の嫌がる攻撃的な守備をすること」が、あの会見でハリルホジッチ監督が述べた内容をシンクロする。酒井によれば、ハリルホジッチ監督は「リアリスト」。さらに「常に相手にどう勝つかを考えているので、ハリルホジッチ監督のサッカーができれば、結構いいところまで行けるのではないか」と期待を抱いている。

「岡田(武史)さんの2010年大会も現実的なサッカーで勝ち上がっているわけだし、ロンドン五輪の日本も“引いてカウンター”という戦術がハマったからベスト4まで行けた」

現実主義に徹した2010年の南アフリカW杯と2012年のロンドン五輪を振り返れば、日本はともにグループリーグ初戦で勝利を収め、決勝トーナメントへ進出している。ロシアW杯でも、初戦のコロンビアを撃破すれば自ずと道は切り開けるはず。酒井はそう信じている。

リーグ・アンのステージで日々激しい戦いを繰り広げながら、酒井は前回のブラジルではピッチに立てなかった借りを返すべく、ロシアW杯へ思いを馳せる。「W杯で勝ちたい」という強い欲求を自らの内に秘めて。

海外移籍前の柏レイソル時代、サポーターから連呼された「サーカイ、サカイ、やってやれ!」のチャントが頭をよぎる。柏でレギュラーの座を獲得するまで、どことなく自信なさげで、サポーターから「やってやれ!」と煽られて自分を奮い立たせていた当時の姿は、今はもう見当たらない。海外での経験を積み重ね、たくましく成長した酒井に半年後のW杯に向けての抱負を聞くと、彼はこう言葉を返してきた。

「やってやりますよ」

おそらく柏時代のチャントになぞらえたのだろう。そして「何年かして柏に帰った後も、またあのチャントを歌ってほしいですからね」と付け加え、柏への愛を示すことも忘れてはいなかった。

本大会開幕まで残り6カ月。この期間をどう過ごすかで本大会の結果が大きく変わることになる。ポイントになるのは、用意周到な準備と組織的なアタッカー対策、そして勝負に徹するメンタルだ。数々の経験を重ねながらフランスで研鑽を続ける酒井宏樹の目には、待ち続けたW杯の舞台で結果を出すための道筋がハッキリと見えている。

文=鈴木 潤

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