ドイツが持つ最高の育成組織…連覇を信じてもいい理由【W杯特別コラム】

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『Goal』では、W杯開幕に際して各列強国に焦点を当てる。第5弾は、連覇を目論むドイツ代表。その中心にいるのは、若手のときから順調に育ってきた選手たちだ。

■育成組織が名高いシャルケ

今季のブンデスリーガを2位で終えたシャルケは、ドイツのルール渓谷で結成された114年の歴史を誇るチームだ。ゲルゼンキルヘンでクラブが創立された当初は、シャルケ地区の炭鉱夫がメンバーの大部分を占めていた。そしてパブで結成され、同様に長い歴史を持ち、地元のビールにちなんだ名を持つボルシア・ドルトムントとは、レヴィアダービーで毎シーズンしのぎを削っている。

20世紀が始まるよりも前からゲルゼンキルヘンとドルトムントは国内外向けに石炭、鋼鉄、そしてビールを生産し、いずれも工業地帯として知られていた。2018年現在、石炭は太陽光に取って代わられたが、今も両地域はフットボール選手の育成地帯として注目を浴びている。

DFB Goretzka 02062018

その代表例が、18歳の頃に地元クラブのボーフムからシャルケに移籍したレオン・ゴレツカだ。シャルケはゴレツカを世界レベルの選手へと変貌させ、このドイツ人は23歳までにオリンピックの銀メダルとコンフェデレーションズカップのタイトルを勝ち取るまでに成長した。バイエルン・ミュンヘンに移籍した現在はヨアヒム・レーブの才能溢れたメンバーの一員としてワールドカップへの出場を控えている。ドイツ代表のスターティングイレブンには、同じくシャルケ・アカデミーの産物であるマヌエル・ノイアーも名を連ねるだろう。

■特定のクラブからドイツ全土へ

ドイツの才能を生み出す“コツ”は何も特定のクラブだけに限られた話ではなく、選手の生産ラインは国中に張り巡らされている。バイヤー・レヴァークーゼンとヴォルフスブルクはいずれも工場の従業員によって結成されたが、今やクラブの本拠地はどちらも産業とフットボールの両方によって知られる街になった。

Christoph Kramer Deutschland DFB Germany against USA 10062015

2014年のワールドカップでは、サミ・ケディラが負傷離脱した穴埋めとしてレヴァークーゼンのクリストフ・クラマーがサプライズで先発に抜擢された。このMFは不幸にも脳震盪で途中交代となったものの、15歳時には低身長によってフットボールでは大成しないと宣告されたことを考えれば、ワールドカップの優勝チームの一員となったことは当時からは予期できなかったことである。当時はローン選手としてボルシア・メンヒェングラッドバッハで活躍し、“ディー・マンシャフト”の一員としてワールドカップの決勝に出場したクラマーは、15歳から数えて8年後には身長191cmのワールドクラスの選手へと成長していた。

クラマーは、ドイツ代表が散々な結果に終わったユーロ2000の大会終了後にフットボールクラブの標準となった最先端のトレーニング施設、レヴァークーゼンの「クルテオッテン」からやって来た。ドイツサッカー連盟(DFB)は1部と2部のすべてのクラブに対してユースアカデミーの運営を義務化し、そしてさらなる投資を呼び込むための財政的なインセンティブを設けた。

間もなくして、ドイツの様々なユースアカデミーはシャルケが若い才能を生み出すために設定していた高度な基準を急いで取り入れ始めた。それは、地元の学校と連携体制を築き、教育と選手の育成を統合する取り組みだった。ボド・メンツェの指導の下でシャルケは若手選手のために完璧な育成場を作り上げ、ドイツサッカー連盟(DFB)とドイツフットボールリーグ(DFL)の介在のおかげもあって、ドイツの他の地域もすぐにそれに追随することができたのだ。

メンツェは「ポルトガルとの試合でドイツのフットボールが粉砕されて地面に崩れ落ちたとき、DFBとDFLはアカデミーを大変革するときが来たと考えた。2001年のことさ」と『Goal』に話す。さらに、このように続けた。

「自分たちの手法がサンプルとして役立つという感覚があったよ。学校との協力が重要なポイントだというのを私たちはわかっていたし、それをDFBとDFLにも見せることができていた。それは私たちがDFBの手によって大きく変えられなかったことを意味するのさ。すでに実践していた取り組みだったからね。2001年に義務付けられたビッグクラブのユースアカデミーの運営は、ブラジルで開催されたワールドカップ2014年大会のドイツ代表の好結果を生み出す、非常に優れた土壌を形成したのさ」

■成果が着々と表に…

Thomas Muller

2011年にブンデスリーガが作成した報告書では、アプローチの手法を変更してからの10年間に、チームが約5億ユーロ(約642億円)を自らの若手選手の育成に費やしたことが明らかとなった。さらに、DFBもユース世代への投資を年間950万ユーロ(約12億円)にまで引き上げ、少なくとも25,000人以上の若手選手を育成するために350以上のユースセンターを設立した。

2012年までに50%以上のブンデスリーガの選手がアカデミーの卒業生によって占められるようになり、2013年のチャンピオンズリーグではブンデスリーガ同士の決勝が行われ、そして2014年になってドイツ代表は再び世界の頂点に輝いた。

Bayern BVB 24052013

両方で最高のときを経験したバイエルン・ミュンヘンのFWトーマス・ミュラーは、上記の50%に含まれているだけでなく、“所属チームと出身アカデミーが同じクラブである選手がブンデスリーガを占める割合”である20%にも該当する。

ミュラーはバイエルンのユースアカデミーの出身であり、DFBとDFLによる変革が国中で形を成し始める直前の2000年にクラブに入団した。10歳の頃からユースランクを上げていき、ついに2008年、ミロスラフ・クローゼに代わってトップデビューを果たしたのだった。

他方、クローゼは今ではバイエルンU-17の監督を務めるが、選手時代はドイツ代表をいつも生き返らせるような存在だった。2014年のワールドカップでは2得点を記録し、通算16得点でワールドカップの最多得点記録保持者となった。

クローゼはたびたび他のチームメイトを足し合わせた以上のパフォーマンスを発揮する、ドイツ代表の勝者のメンタリティを象徴するような選手だ。ワールドカップには4大会連続で出場し、豊富な国際経験を発揮することで若手選手をけん引しながら、出場したすべての大会で準決勝以上に進出した。

元ドイツ代表FWでドイツ代表の監督を務めた経験もあるユルゲン・クリンスマンは「すべての世代にリーダーや特別な選手がいるね」と『Goal』に語り、「2006年に、ミヒャエル・バラック、イェンス・レーマン、オリバー・カーン、クローゼといった経験豊かな選手にけん引されたチームを指導したのは幸せだったよ」と続けた。

Jurgen Klinsmann

「今のドイツ代表を引っ張っているのは、例えばノイアー、トニ・クロース、ミュラー、メスト・エジルだね。すべての世代に挑戦とダイナミズムがある。チームの化学反応は最も重要なパズルのピースだよ」

2018年のワールドカップを副主将として臨むミュラーは、代表チームに2大会連続のタイトルをもたらすことが期待されている。ミュラーの影響力はプレーだけではなくピッチの外にまで及び、周囲に勝者のメンタリティを植え付けることで、チームメイトが最大限の力を発揮することが期待される。

レーブは「皆は自分がパズルの一部であることをわかっている」と語る。

「誰も自分の力だけではワールドチャンピオンになることはできないからね」

■バラックが見る連覇の可能性

パズルを組み立てる長いプロセスは選手が各クラブのユースアカデミーに入団することから始まる。ブンデスリーガのクラブが持つ生産ラインは、高いレベルの期待に応えられる選手になるための包括的な教育プログラムを提供し、選手にとって最適な準備環境を整える。

Michael Ballack 12012017

ドイツ年間最優秀選手賞に3度輝いたバラックは、ドイツ代表のワールドカップ連覇に期待を寄せる。また、例えメンバーが代わっても大会のプレッシャーをコントロールする新リーダーが現れることを期待しているようだ。「当然ドイツ代表にはチャンスがあると思う」と『Goal』に語り、今大会への思いを口にする。

「我々はディフェンディングチャンピオンだ。この4年間を通じて多くの重要な選手やリーダーを失ったけど、それに代わる選手が出てきているし、プレッシャーをコントロール出来ているよ。チームはバランスが取れているし、十分なクオリティが維持されている。監督も経験豊富だしね」

「ディフェンディングチャンピオンという立場だから、もし準決勝や決勝に進出すればより大きな期待が掛けられるだろう。その立場をいつも意識してコントロールしなくてはいけないね。ちょっとした新しい経験だといえるよ。でもドイツには常に期待が掛けられている。ドイツは常にドイツ。チームは準備万端だよ」

バラックはドイツ代表に注入されている勝者のメンタリティを引き合いに出し、より技術的に優れたチームを相手にしたとしても、何年にも及ぶ準備と組織化によってロシア大会で成功をつかむことができると考えている。

「一般的にドイツのメンタリティはとても体系化されているよ。きちんと学習することで、クオリティは問題ではなくなる。学習をすれば準備が整うのさ。試合で一定の自信を持つことができるし、それは多少の拠り所になるよ」

「あらゆるチームや選手には興奮と緊張感がつきまとうけど、特に大きな大会ではメンタリティがちょっとした安心材料になる。周りのチームメイトが準備万端であること、彼らがいかに仕事をこなし、自分に規律を課してきたかを知っている。それが試合ではいつもさらなる自信と安心をもたらしてくれるのさ」

「そのさらなる自信と安心が、僕らが厳しい状況に置かれた時にアドバンテージになるだろうということだ。それが僕らのメンタリティさ。僕らは大きな大会で偉大な記録を残しているけど、それにはもちろんクオリティが必要だし、学習が必要だ。(クオリティと学習は)僕らが持つうまい組み合わせだね」

■ノイアー復帰も大きな力に

ロシア大会のドイツ代表は昨年のコンフェデレーションズカップを制したメンバーと2014年ワールドカップの優勝メンバーが絶妙に混ざり合い、経験と若さが完璧に融合するバランスの取れた素晴らしいチーム編成となる。すべてのメンバーがクラブレベルと国際レベルで成功を経験しており、チャンピオンになる術を知っていることだろう。

この思考態度がドイツのワールドカップ連覇を確実にする。選手は自国のために戦うだけでなく、自身が“ディー・マンシャフト”に値することを証明するために戦うのだ。

Manuel Neuer Deutschland 02062018

ノイアーは昨年の9月からバイエルンでプレーしていないが、正守護神として大会に臨む。ノイアーはピッチの上だけでなく、そのマインドも世界最高のGKだ。他の選手であればワールドカップを家のテレビで観ることになっていただろうが、ノイアーの決意と存在感がピッチへと押し戻したといえよう。

メンツェは「ノイアーの経験、パーソナリティ、そして“マヌらしさ”が、レーブが彼を手元に残し、1番であり続けるチャンスを与えた理由だ」と語る。

「ノイアーは1番として大会に臨むが、1番のままロシアから戻ってくることを期待しているよ」

ドイツ代表に選ばれた選手は所属クラブよりも代表を優先する。ドイツ代表チームはクラブ選手の寄せ集めではなく、一つの集団だ。アーセナルのエジルは低調なシーズンを送ったが、ドイツ代表に限れば輝きを期待できる。

メンツェは「エジルは類まれな才能を持つ素晴らしい選手だ」と評価し、「もし良いフォームで試合に望めば、その左足で攻撃に違いを生み出すだろうね」と太鼓判を押す。

ノイアーとエジルはシャルケのユース出身であり、ブンデスリーガの最先端のアカデミーでワールドクラスの才能を磨いた。これは、バイエルンで育ったミュラーやマッツ・フンメルスのように、チームのすべてのメンバーに共通することだ。

ドイツの工業は今ではかつてほど重要視されない石炭と鋼鉄の生産から、この100年で大きく移ろいだ。しかし、世界に誇るハイクオリティな産物を掘り出すワザは、ドイツのクラブのユースアカデミーに脈々と受け継がれている。今夏にドイツが再び黄金を掘り出すことに賭けない者はほとんどいないだろう。

文=ロナン・マーフィー/Ronan Murphy

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