Zinedine Zidane Real Madrid VillarrealGetty Images

ジダンが冬の移籍市場で動かなかった理由…考えたのはレアルへの誇りとリスク

昨夏の移籍期間を思い返してみれば、史上最高額で移籍したネイマールの話題だけでなく、ここ数年の移籍とは少し違った状況が垣間見える。世界中で多額の移籍金や契約金を結んで移籍する選手が多くなり、いわばマーケットの”突然変異”が起こった。

そして、夏の移籍期間だけではなく冬の移籍期間にも同じことが起きようとしている。そして1月は、フィリペ・コウチーニョ、ピエール・エメリク・オーバメヤン、アレクシス・サンチェス、テオ・ウォルコット、ヘンリク・ムヒタリアン、ジエゴ・コスタ、ビトロなどのスター選手と多額の金額が動いていることがわかる。需要があり供給がある。これはつまり市場が成り立っているということだ。中堅クラブにもビッグクラブとの交渉のチャンスがあり、スター選手を獲得できる可能性が生まれている。

以下に続く
Coutinho, Van Dijk, Barkley

翻って、今年のレアル・マドリーでは冬の補強が一切行われていない。フロレンティーノ・ペレス会長は1月は常に消極的になっている傾向がある。だがチームの組織下では今冬の補強で少なくともゴールキーパーのケパ・アリサバラガの獲得を実現するはずだった。しかし、チームの成績不振を振り払うための新戦力がチームに合流することはなかった。それどころか、ケパ獲得はすでにロスブランコスの手中にあったにも関わらずその選手でさえも獲得が実現しないでいるのが現状だ。

マドリディスタの間では、「なぜこんなことが起きてるんだ?」という言葉が一斉に飛び交う。答えは単純にジダンがチームの補強は必要ないと判断したからだ。指揮官は市場に並んでいる商品を吟味し、知り尽くしていた。普段スーパー、精肉屋、八百屋、魚屋を順に回るように各商品を吟味し、自分の家の冷蔵庫にある食材と比較し、以前買った食材以上の品質の物は無いと判断した。これがもし他の監督であれば、もっと美味しく品質の良い食品が欲しいと思っただろうし、別のメンバー構成を考えたに違いない。ペレス会長も補強が必要な場合は積極的に選手獲得に動いたであろう。だがジダンは他の監督とは違う。

2000年に選手としてマドリーの地を踏み、紆余曲折を経て、2年間でチャンピオンズリーグ2度制覇(監督就任から通算8度のタイトル獲得)を誇るトップチームの監督となった。ジダンの言葉にはチームへの愛の重みを感じる。他の監督とは違う説得力があるのだ。フランス人指揮官の言葉は現在のチームの状況だけを判断して発している言葉ではない。現在のチーム、選手が最高であるとの誇りを持ち、成績不振を外部の力無しに必ず振り払ってくれると信じている。​

Zinedine Zidane Real MadridGetty Images

ジダンはまだ選手としての感覚、考え方を失ってはいない。常にそこから監督としての考え、マネージメントが生まれている。彼は一人のサッカー選手だった。それも世界最高の選手だ。彼はレアル・マドリーというチーム、ロッカールームまで完璧に熟知している。彼独自の考えを持ち、程よいプレッシャーを自分に掛けているだろう。すべての選手全員が即座にチームに良い影響を与えるわけではない。選手には少しでも良い環境で気持ちよくプレーしてもらうのが理想だ。シーズン半ばに外部から新しい戦力を加え、今いる選手のポジションが奪われた時のモチベーションの維持やメンタルケアも考えている。選手たちだけでなく経営側も同じだ。チーム全体での意思疎通、経営方針、選手のモチベーション維持など全ての点が合致しないとチームとして成り立たない。ましてや世界最高のチームならなおさらだ。その場限りの選手の獲得はチーム自体を壊してしまう恐れがあることをフランス人指揮官はよく知っている。

実際にはジダンが選手時代に冬の移籍市場で2005年にトーマス・グラヴェセン、ハビエル・ポルティージョを獲得し、その1年後にはアントニオ・カッサーノとシシーニョがやってきた。この4選手はチームの新戦力とは良い難い結果で最終的にチームを去ることになった。カッサーノとグラヴェセンに関しては良い成績を残せなかっただけでなく、ロッカールームにまで悪い影響を及ぼした。

最近では、ジダンが下部組織のカスティージャで指揮を執っていた時、ノルウェーの神童マルティン・ウーデゴーアの獲得にも立ち会った。だがこの獲得には金銭面や話題性のための移籍ではないのかなど疑問の声が上がっていた。最終的にトップチームに残ることができなかったが、ジダンはそうなることをわかっていたようだ。チームのプレッシャー、状況、目的、予算などはトップチームにはさほど影響することが無いと分かっていても、シーズン途中での新戦力獲得だけは、チームを良い方向に導くか悪い方向に向かわせるか、どちらに転ぶか予測がつかないということを知っている。

Zinedine Zidane Real Madrid Villarreal LaLiga 13012018Getty

ジダンには自身の明確な考えがある。新戦力が与えるメリット・デメリットを熟知している。第一に予算面、チームメイトとの環境、チームへの利益などがあるが、目先の利益だけでなく、世間やメディアからのプレッシャーも重要と考えている。総合的に考えた結果、すべての必要項目を保障できない場合、「なぜ補強をする必要があるのか」と考えた。これがフランス人指揮官のロジスティックである。

文=アルベルト・ピニェイロ/Alberto Piñero

▶リーガ・エスパニョーラを観るならDAZNで!1ヶ月間無料のトライアルを今すぐ始めよう。

広告