クロップの頭の中を紐解く…“雑音”との付き合い方、選手にとって理想的な思考プロセスとは?

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信頼するリヴァプールの番記者に自身の胸の内や頭の中に渦巻いていることを説明したクロップ。現代サッカーからはもはや切っても切り離せないものとなったメディアとの付き合い方など、クロップの見解やいかに。

「彼はどうしてる?」

「家族は元気かな?」

「彼が奥さんと出会った時のことを話してくれたことを覚えているよ。2人はまだ一緒かい?」

ユルゲン・クロップは次から次へと質問を投げかけてくる。その内容は彼がリヴァプールの指揮官に就任する前、5回ほどしか起用しなかった選手についてだ。もう10年近く前の話だが、それでもクロップは今でも元教え子の動向を気にかけているようだ。

これがクロップの流儀であり、誰に対しても変わらない。昨年12月、ボーンマスを4-3で下した後、彼はジョーダン・アイブのもとへと駆け寄った。アイブはアンフィールドで出番を増やしつつあったウィンガーだったが、クロップがレッズで迎えた初めての夏の移籍市場において1500万ポンド(約21億8000万円)でボーンマスへと売りに出された。にもかかわらず、彼がアイブに寄せるサポートと関心は変わらない。

Jordan Ibe Bournemouth 2016

クロップと彼がかつて指導した選手たちとの間には、マインツ時代であれドルトムント時代のものであれ、その後のプロキャリアの中でも良好な関係を築き続けるケースが多い。それはひとえに、彼がピッチ上での能力以上に選手個人に対して強い興味を抱き、付き合うからだろう。

サッカー選手はピッチ内外で比較的簡単に関係性を作り上げられるものだ。だが深く付き合うには、彼らが何者であり、何を信じ、どのようにしてそこまでたどり着き、何が彼らを突き動かすのか、練習を終えた彼らを迎えるものは何か――。これらの要素をよく理解し、人の深層に迫ることが重要だ。

だからこそ、クラブに新加入したアンドリュー・ロバートソンが父親になることをスタッフの誰も知らなかったことに、クロップはひどく当惑した。

「なぜそれを知らなかったんだ? 彼の人生で最大の出来事じゃないか! 信じられない!」

HD Jurgen Klopp Andy Robertson

このクロップの大げさなまでに懐の深い愛情表現は、彼のやり方の大部分を占めるものだが、それ以外にも彼は様々な知的な道具を持ち合わせている。

例を挙げよう。指揮官は2年前の夏から、常に連絡が取れるようWhatsApp(チャットアプリ)にチームのグループを作った。

それはチームの結束を強めるため、そしてまた事実を明確につかむためだった。クロップは自身が管理する領域、選手との関係性にリラックスした空気をもたらした。

昨年、数名の選手がこのグループに、ランニングマシンで状態のキープに努めている様子を送信した。それに対してクロップは「ああ、興味深いね。君たちはそれで走っているのか。だがそれは間違っているぞ」と返信している。そして彼は選手たちにマシン上で走ってほしくない理由を説明した。ビーチ、トラック、そして公園でランニングをした際の循環器のはたらきを示した図を送信することによって。指揮官からのメッセージが、直接選手たちに届けられた明確な例である。

■メディアが与えた悪影響

香港のリッツ・カールトンホテル118階、ヴィクトリア・ハーバーを見下ろす絶景が見えるOZONEの空中バーの一室で、クロップはその景色以上の壮大なパノラマを描いていた。

彼は試合における心理的な影響に関心を寄せていた。年が明けたころ、リヴァプールは深刻なスランプに襲われたが、心理面はその主たる原因ともされるチームの不安定要素だ。50歳のドイツ人指揮官はこう振り返る。

「12月31日まで、そう、マンチェスター・シティ戦まで、我々は自身に満ち溢れていたんだ。あれは1-0の結果に相応しい、素晴らしい試合だったね。だがこの試合で何かが起きたんだ」

「2日後、我々はサンダーランド戦を迎えた。全く異なる試合だったが、結果はドローだった。彼らは深く引いて守るチームだ。我々は2点を奪い、彼らは2つのPKで得点した。だがこの直後、選手たちは『ああ、きっと自分たちは十分じゃなかった。チャンスを無駄にしてしまった。得点機はあったのに決められなかった』と思ってしまったのだろう」

「だがたった1試合のことだ! あの時は誰もが勝ち点を逃した。そう、最終的にチャンピオンになったチェルシーですら、珍しく勝ち点を逃したんだ。我々はこの状況にうまく対応すべきだった。そうすることができれば、我々は強豪と渡り合うことができるようになるんだ」

クロップはクラブのビジネス上やらざるを得ない、だが労力を削られるプレシーズンのあわただしいアメリカツアーの間、チームの人員状況に対する外部からの意見に不快感をあらわにした。

「1月、私たちは2つの大きな問題に直面していたんだ。自分たち自身に十分自信を持てていなかったこと、そして離脱者の多さだ。あまりにも多くの負傷者がいただけでなく、サディオ(・マネ)がアフリカネイションズ・カップでチームを離れていたんだ」

sadio mane FBL-ENG-PR-LIVERPOOL-EVERTON 01042017

さらに、メディアからのバッシングがチームに小さくない影響を与えたことを認める。

「そして2月、その前の月からインテンシティに問題を抱え続けていた。だが3月にはそれを取り戻した。再び勝てるようになったんだ。だが人々は言うんだ、“前と同じフットボールじゃない、彼らはもがき苦しんでいる”とね。こうした外野の声でまた選手たちは疑問を抱くようになってしまった」

クロップ監督はどんな強豪クラブであっても、否定的な意見はチームに届いてしまうと考えている。

「どんなクラブであっても、そうした声にはどうしても耳を傾けてしまうんだ。そして“ああ、またこれだ。彼らは深く引いて守る相手に対するプランBを持っていないんだ。同じようにしかプレーできない”とか言われるんだ」

「我々は昨シーズンの初め、我々のスタイルとは違うやり方であっても、強さを見せることができた。アンフィールドでウェスト・ブロムウィッチを相手にしたときなどがそれだね。あの時はチャンスが限られていて、それが危険なことだともわかっていたんだ」

一方で、代替案としてやり方をコロコロ変えるような戦い方には否定的な見解を示している。

「プランBについて話すのは理解が足りないよ。自信が持てていないときにあれこれと多くを変えるべきじゃない。それは不安定を招くからね」

「私の仕事は1000の異なるテクニックやコーチングなんかを披露することじゃないんだ。“ほら、プランD,F,Qだってあるぞ!”みたいなことをするのは違う。その時々の状況で、私のもとにいる選手たちにとってベストなことを選択することが私の役目なんだ」

Jurgen Klopp Liverpool

クロップはマスコミの雑音が与える影響の難しさを認めつつ、進むべき道を示す。

「我々について何か書かれ、話されているとしても、私はそれを聞くつもりはまったくないよ。だが参ったことに、それが話されていれば誰もが耳を傾けてしまう。だから我々はそうした雑音を遮断して、我々が行くべき道に集中しなくてはならないんだ」

では、彼の発言がしばしば報道やファンが発する雑音の中で増幅されてしまうという問題についてどう対処しているのだろうか?

「私はチームとともに歩み、ロッカールームで選手とともにあり、チームをサポートする存在だ。つまりそれらのプロセスに関与することの無い人々のことなど選手たちは信用する必要がないんだ」

続けて、クロップはドルトムント時代に幾度も立ちはだかってきたバイエルン・ミュンヘンのアリエン・ロッベンを例に出しながら、このように説明する。

「世界中が彼をどのように言おうが考えようが、彼は彼の仕事を果たすだろう。ある時、彼が強引にシュートを放って、ボールがはるかゴールを逸れたとする。すると誰もが“なぜシュートしたんだ?”と嘆く。そして次の時、彼が同じ角度からパスをせずシュートし、得点したとしよう。すると“おお、あそこからシュートするなんて、さすがロッベン、素晴らしいアイデアだ”となるのさ」

「彼は外野の意見なんか構っちゃいないんだ。彼はチームが彼を、そして彼のスキルを必要としていることを知っているからね。それで十分なんだ」

「11人の選手全員が望ましいプレーをするよりも、全員が同じ失敗をしたほうが良い、そういうものさ」

Arjen Robben, Bayern Munich 05132017

クロップはサッカー選手の一般的な思考プロセスが、批判にさらされることで変わってしまうことに注目している。

「例えばロベルト・フィルミーノだが、人々に言わせれば十分に得点していないらしいじゃないか。なんだって? 彼は得点しなくたってベストな選手だ。試合を読み、他の選手を活かすプレーができる。素晴らしいよ! だが彼がこの手の批判を受けたらどう考えるだろう? “ああ、俺はもっとゴールを奪わないといけないのか…”と思い悩み、普段の彼ならクレバーなボールさばきや、オープンスペースへの走り込みを見せるような場面でも無理にでもシュートを放つようになるんだ」

「チームには一つのプラン、一つの声、一つの信念があるべきだ。すべてが完璧なことなんてない。なぜなら我々は完璧ではないからだ。だがそれが我々の道でもある」

クロップは自信喪失ということは若いチームが前進するうえでよくある問題だと理解している。だが同時にリヴァプールが何をしようとしているのかを強調した。

「私はいたってポジティブだよ。選手たちの姿勢やスキル、そして学ぼうという意志を感じるからね」

「ここにいるどの選手も彼らがリヴァプールの一員である理由を持っている。とても素晴らしい理由をね」

「こうした素晴らしいチームがあるのに、昨シーズン我々がどのように過ごし、成し遂げたことを考えれば、それでハッピーだとは到底言えないね。我々は昨季よりも一つでも高く、次のレベルに進めるように、より取り組み続ける必要がある」

さらに、まだリヴァプールにとって不可欠な選手とは呼べない若手選手の名前を挙げ、彼らもこのクラブにいることには理由があるとした。

「トレント(・アレクサンダー・アーノルド)を見てくれ! なんてポテンシャルだ! いま彼は守備を改善する必要があって、それを目標に取り組んでいる。そう、彼はまだ若い。だが彼は成熟した大人のように守備することもできる。彼はプレミアリーグでレギュラーとしてプレーできる男だよ。彼が子どものように守備し、攻撃時にだけ男になっている限り、彼はその素晴らしい才能の半分しか使えていないことになる」

「これを私が変えることはできないんだ。変えられるのは彼自身だけだからね。だが選手は、自分が今以上になれることを知ったとき、よりエキサイトするんだよ」

「ベン(・ウッドバーン)を見てくれ。素晴らしい選手だよ! 彼は強力なクリスタルパレスを相手に8番の選手としてプレーした。そしたらまるで今まで他のポジションでプレーしたことがないかのように自然にプレーしてみせた。実際彼はあのポジションでは数回しかプレーしたことがないんだけどね。ジニ(ワイナルドゥム)も台頭してきたけど、インテリジェンスの面ではベンは大きな武器を持っているんだ」

「チーム全体を見渡してみよう。ロベルトはまだ伸びるか? 当然だ。ディヴォック・オリギは? もちろん。サディオ? 彼はまだ始まったばかりの選手だよ!選手たちは自身に満ちている時は正しい決定を下すものだ。そうじゃないとき、彼らは“次のパスはゴールしないと”とか“いま俺たちはプレッシャーをかけられている。もっと強くいかないと”とか考えるようになる。だがそうじゃない! いま何をしているのかにこだわるべきだ。トライして、トライして、何度もトライするんだ。すべてのミスが失敗というわけじゃない。それは情報となる。それを活かしてまたやってみるべきなんだ」

Jurgen Klopp Liverpool

クロップはこれらのメッセージがWhatsAppsで届けられたメッセージのように、選手たちに届き、これを受けて彼らが取り組んでくれることを願っている。

インタビュー・文=メリッサ・レディ/Melissa Reddy

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