アーセナルは再び栄光を築けるのか?ヴェンゲルが下した決断と迫りくるタイムリミット

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1月のマーケットで、史上稀に見るほどの大きな動きをみせたアーセナル。チームの再編成を断行したガナーズの決断は功を奏するのか、それとも……。

ここ数シーズン、同様のフレーズが紙面やネット上を賑わせる機会が増えた。もはやファンにとっては「耳タコ」の表現になっているかもしれない。

しかし、それでもこの表現を使わざるを得ない状況に、今のアーセナルはある。

そのフレーズとは「大きな転換期を迎えている」だ。

昨シーズン、ガナーズはアーセン・ヴェンゲル政権下で初めてプレミアリーグのトップ4圏内を逃した。今季はチャンピオンズリーグ(CL)に出場できていない。もっとも、開幕前に指揮官が「こういう状況に対応しないといけない。我々にとって完璧にプレミアリーグに集中できるいい機会だ」と意気込んでいたように、いい一年を過ごせるチャンスのある状況だった。

しかし、始まってみれば27節を終えて13勝6分8敗、勝ち点45で6位に甘んじている。

首位のマンチェスター・シティとはすでに27ポイント差がつき、リーグ優勝はほぼ不可能に。ビッグ6との対戦成績でも、ここまでリーグ7試合を終えて1勝3分3敗と、相変わらず分が悪い。結局、今季もいわゆる“アーセナル的なシーズン”となってしまっている。普通のビッグクラブならば、とうの昔に指揮官のクビが切られていたことだろう。

ただし、決して明るい見通しだけが立っているわけではない状況下で、彼らは大きな決断を下した。この変化が、アーセナルを再び浮上させるきっかけになるかもしれない。

■「あり得ない」サンチェスの退団とチームの再編成

アーセナルにとって1月のマーケットは、「チームの再編成を迫られるもの」になった。ヴェンゲル監督自身も、「過去最高に大変だった」と認めている。

新たに2選手が加入した一方、トップチームに登録されている7選手が退団するという、冬のマーケットでは稀に見るほどの動きがあった。

特筆すべきは、何と言ってもアレクシス・サンチェスの退団だ。

昨シーズン、サンチェスは公式戦51試合で30ゴール19アシストを記録した。FAカップ決勝でもゴールを挙げるなど、エースとしてチームをけん引する存在だった。

もっとも、周囲の期待とは裏腹に、本人は必ずしもアーセナルに居心地の良さを感じているわけではなかった。残り一年となった契約の延長を望まず、ヘンリク・ムヒタリアンとのトレードという形でマンチェスター・ユナイテッドへ新天地を求めたのだ。

ヴェンゲル監督はシーズン開幕前、マンチェスター・シティへの移籍が破談となった後、サンチェスの去就についてこう語っていた。

「シーズン中の退団はありえない」

しかし、移籍は成立した。

『BBC』のエース記者として活躍するデイヴィッド・オースタイン氏は、サンチェスとアーセナルの状況について、このように語っている。

「昨シーズン、(ゲームキャプテンを務めるDFローラン)コシールニーと練習中に口論となった。サンチェスは多くのチームメイトと馴染めず、自分の愛犬たちによって自分自身を保っていたと思う。(冬の退団の際に)他のメンバーからお別れのメッセージがないことが、それを物語っている」

「何人かから、クラブはサンチェスに新契約を提示していないと聞いている。選手がサインしたがらないこと、良い関係を築けていないことをわかっていたようだ」

2018-01-14 Alexis Sanchez

サンチェスは誰もが認めるアーセナルのエースだったが、必ずしもチーム内で信頼を勝ち取れているわけではなかった。指揮官も「市場の混乱がチームのパフォーマンスに影響した」と話している。(もっとも、この発言は昨夏にMFアレックス・オックスレイド=チェンバレンが移籍市場の閉幕ギリギリでチームを去った際に残したコメントと全く同じで、ファンにとって「そうでしたか、仕方ありませんね」と受け入れられる類のものではなかったが)

そして実際のところ、この移籍は双方にとってメリットの大きな取引だった。

サンチェスはリーグレコードとなる週給50万ポンド(約7600万円)を受取り、再びCLの舞台で戦うことができる。また、“赤い悪魔”(マンチェスター・ユナイテッドの愛称)伝統の背番号7を着用できるということも、魅力の一つだろう。

アーセナルは移籍金ゼロでクラブを離れる可能性が高かった選手の代わりに、契約が3年半も残るプレーヤーを迎え入れることができた。しかもチームのバランスを崩すことが多かったサンチェスに比べ、ムヒタリアンは最終ラインまで下がって守備をすることもいとわない献身性を持っている。単純に個人の得点能力を比較すればサンチェスに分があるものの、チーム単位で考えればムヒタリアンが加わることで得られるメリットのほうが多い可能性すらある。

常識的に考えれば、冬の移籍市場で中心選手を放出するなど、ビッグクラブの下す判断ではない。しかし、常識的に考えればとっくの昔にヴェンゲル監督のクビは飛んでいたわけで、常識にとらわれない判断がチームを上向かせることも、十分に考えられると言っていいだろう。

■ついに実行された余剰戦力の整理

また、触れずに通れないのが、クラブ一の古株だったFWセオ・ウォルコットを放出したことだ。さらに下部組織出身のMFフランシス・コクラン、ファンの人気も高かったFWオリヴィエ・ジルーも手放す判断を下した。

3人は今季、ポジションをつかめなかった。先発出場は3人合わせても2試合のみ。にもかかわらず、アーセナルは合計5000万ポンド(約74億円)と言われる移籍金を手にした。

ヴェンゲルは選手を大切にする監督だ。特に在籍期間の長い選手の移籍を望まない傾向にあった。ウォルコットはその象徴。クラブのレジェンドであるティエリ・アンリ氏の14番を引き継いだウォルコットは、ゴールを量産してはパフォーマンスを落としたり、ケガをして伸び悩むというシーズンを繰り返してきた。それでも指揮官は信頼を示し、2015年にはチーム3番目となる週給11万ポンド(約1600万円)で契約を延長した。期待の高さが示された数字である。

しかし、少々厳しい表現をするなら、これは「温情措置」だった。ライバルのトッテナムでエースストライカーとして活躍するハリー・ケインとほぼ同額を受け取るウォルコットが、その額に見合った活躍をしていたとは言い難い。
Theo Walcott Arsenal Premier League 14082016
移籍金、週給、チームで残していた結果を総合的に判断すると、彼がチームを去ることで得られるメリットに目を向けることになったことも(残念なことに)うなづけるというわけだ。

■1月のマーケットをどう総評する?

まとめるなら、1月の移籍市場におけるアーセナルは「結果とビジネス的成功を求める現代的なビッグクラブ」の動きをした。

チームに馴染めない選手や控えメンバーを放出し、ムヒタリアンと昨季のブンデスリーガで得点王となったFWピエール=エメリク・オーバメヤンを5600万ポンド(約83億円)で獲得した。素行に問題がある点はたまにきずであるものの、ドルトムントにおける公式戦213試合で141ゴールを挙げたストライカーが新たな戦力となったのだ。控え選手3人の移籍金で世界屈指のストライカーを迎え入れられたのだから、決して悪いディールではなかったと言っていい。(なお、一連の冬の動きには、昨年末クラブに加わったチーフスカウトのスヴェン・ミスリンタート氏が深く関わっているという点を付け加えておこう。加入した2選手は、ミスリンタートがドルトムント時代にもチームに引き入れた選手たちだった)

Henrikh Mkhitaryan Pierre-Emerick Aubameyang Arsenal

実際、オーバメヤンとムヒタリアンが先発した第26節のエヴァートン戦を、アーセナルは5-1で大勝した。オーバメヤンはデビュー戦でいきなりゴールを挙げ、ムヒタリアンは3アシストを記録。内容面でも、ボールと人がテンポよく動く攻撃が見られるようになってきた。

決して机上の空論ではなく、ひとまず冬の移籍市場におけるアーセナルの動きは「成功」と見て良さそうなのだ。

■“アーセナル的”な現状の行く末は…

繰り返しになるが、アーセナルは2018年1月に大きな転換期を迎えた。

エースの放出と人員整理、新戦力の獲得により、クラブは未来への扉を開く準備を整えた。クラブの中枢にミスリンタート氏という新たなブレーンを迎え、基盤を固めるという整備も進められている。さらに幸運なことに、ピッチ上ではグーナー(アーセナルファンの愛称)たちが夢見てきたジャック・ウィルシャーの復活という出来事も折り重なっている。

Jack Wilshere Arsene Wenger Arsenal

これも「耳タコ」な表現かもしれないが、ここまで時間とお金をかけてタイトルが獲得できないなら、批判されるのは至極真っ当と言わざるを得ない。今シーズンのリーグ優勝は現実的ではないにせよ、ヴェンゲル監督との契約が残る来シーズンにビッグタイトルを獲得できなければ、サポーターや世間が黙っていない。そうなれば、世界的なムーブメントとなった「#WengerOut」が再び巻き起こることになるだろう。

大きく舵を切ったノースロンドンのビッグクラブとヴェンゲルは、いかにして栄光の時代を再び築いていくのか。
少なくとも(これも“アーセナル的な表現”にせよ)、今この時点では、明るい未来を期待させるだけの材料は、確かに手のうちにある。

文=河又シュート(Goal編集部)

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