ありがとう、イングランド。いい夢を見させてもらった【W杯特別コラム】

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クロアチアが三度目の延長戦を制して、初めてのワールドカップ決勝進出を決めた瞬間、イングランドの夢はついえた。決勝に進出していれば、イングランドにとって52年ぶりのことであった。『Goal』では特別コラム第16弾として、イングランド国民を大いに沸かせることに成功したスリー・ライオンズに焦点を当てる。

■2つの歌

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イングランドのファンには、今回のワールドカップへの気持ちを総括する歌が2つある。

ひとつは、家には帰らないと歌うもの。まだ帰らない。ここで飲もう。仕事は忘れろ。延長だ。酔っ払いの歌である。午後、いい気持ちになって、夜の試合を観戦し、どういう結果であろうと大してストレスを感じないための歌だ。

もうひとつは、国にサッカーが戻ってくることを予言する歌。W杯の栄光が戻ってくる。栄光とともにトロフィーが戻ってくる。

この2つの歌の中心となるメッセージが矛盾したものであることにお気づきだろうか。この素晴らしいW杯において、常に彼らはじっとしていられない……サッカーが母国に戻れなくても。

期待すれば裏切られる。さらに悪いことに、イングランドはうまくいかないだろうと予想されていた。

■低かった下馬評

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今大会が始まったとき、イングランドには何もなかった。若いチームだから楽しませてやろう、結果は二の次だと言われていた。

だが、ドイツが敗退して道が開けた。イングランドはチュニジアとパナマを破り、決勝トーナメント進出を決めた。すると、ロシアがスペインを倒してくれた。

いやいや、ダメだ。期待してはダメだ。何が起こっても、期待してはダメだ。

だがコロンビアを退け、これまでのPK戦の悪夢を振り払うことができた。すると、準々決勝の相手としてスウェーデンが現れた。いやいや、期待してはダメだ。冷静でいなければ。そう思うそばから期待が沸きあがった。

イングランドの準決勝進出は28年ぶりだった。ラウンドが進むにつれて、会場に詰めかけるファンが増えていった。

当初、ファンは遠巻きにして眺めていた。人種差別と暴力の恐ろしい噂が聞こえてきていたからだ。だがおそらく、それだけではなかった。遠いロシアまでわざわざ行って、負け試合など見たくはない。

しかし、準々決勝ではハリー・マグワイアが得点し、デレ・アリが追加点を決めた。飛行機の予約は殺到した。突然、今大会のイングランドチームの株が急上昇し、欠席を決めこんでいたサポーターたちは、聖ゲオルギウス十字をもち、「England Are In Russia(直訳・イングランド、ロシアにあり)」を歌いだした。

そして、数千人のファンがロシアに押しかけた。夜の便の飛行機は満席となった。アムステルダム発の便にも、スペインのマラガ発の便にもイングランドサポーターが詰めかけた。試合時間までにモスクワに着く便であれば、どこ発であろうと、かまわなかった。

ひょっとして、ひょっとしたら。期待してはいないけれど、でも、いてもたってもいられない。

このチームなら信じられる。このチームと監督は、イングランドのサッカーの傷だらけの王冠を拾い上げ、磨きをかけ、陳列棚に戻してくれた。W杯ではなかったけれど、あれが始まりだった。

日がな一日、チームの良いところ、さまざまな噂話、煮ても焼いても食えない選手たちについて語ることはできる。だが、それ以上のものがそこにはあった。

そこにはイングランドの流儀がある。腹の中には厳しい決意と負けず嫌いの意志があるのだ。

さらに、おそらくガレス・サウスゲート監督率いるイングランドは、準備は十分ではなかった。それでも、もう少しのところにきていた。時には、クロアチアを破ってW杯のファイナリストになれるように見え、また時にはそう見えないこともあった。

■敗退…だが不幸な物語ではない

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試合が始まって5分、イングランドは決勝進出を手に入れたように見えた。だが、またしても決定力不足が露呈する。敗退がプレーに見え隠れした。

のべ9回のチャンピオンズリーグ優勝を誇る選手たちのいるクロアチアを――そのうちの4回はルカ・モドリッチが成しえたものだが――自由にやらせてしまったことが、致命傷だった。

イングランドは勝ち進めなかった。一流選手のイヴァン・ペリシッチに同点ゴールを決められたことが、決定的だったかもしれない。

突然、冷静さとポゼッションの自信がなくなった。大きなクリアばかりで、冷静にゴールに迫ることができなくなった。

コロンビア戦と同じく延長戦に突入したが、これによりクロアチアはW杯決勝トーナメントのすべての試合で、2時間にわたりプレーすることになった。

すると、ペリシッチが巧みにボールを扱って、もう一人のチャンピオンズリーグ優勝経験者であるマリオ・マンジュキッチの道を切り開いた。それがすべてだった。

クロアチアの全選手がようやくのゴールを喜んでいたとき、マーカス・ラッシュフォード、ジェシー・リンガード、デレ・アリが、必死に突進していた。確かに議論の的になったようだが、相手チームの選手が全員フィールドにいなくても、キックオフして得点することはできる。奇想天外で、ドン・キホーテのような、大胆で、原始的な戦法だ。

そして、その後、演奏が止んだ。歌が止んだ。

「Please don’t take me home(直訳・私を家に送っていかないで)の歌が、「Let’s look for flights home(直訳・帰国便を手配しよう)」に代わったのだ。二日酔いの輩がブーイングを始めた。手遅れに思えた。月曜の夜から寝ていない者もいた。

彼らはそもそも、信じたのがバカだったと思ったのかもしれない。期待すれば裏切られるものだ。

だが、これは不幸な物語ではない。イングランドが再び主張を始めたのだ。イングランドは準決勝進出には値するチームだった。だが、それ以上ではなかった。

そんな風に考えるのがいいかもしれない――サウスゲート監督が選手時代の1996年のユーロでしたように――彼らを本気にさせるために。

試合終了のホイッスルが鳴ったとき、選手たちは撃たれた兵士のように倒れこんだ。数千人のファンも同じ気持ちになるべきだったかもしれない。だが、違った。

サポーターたちは、ゴール裏に立って拍手を送った。感謝と称賛の拍手を贈ったのだ。応援するに値するチームを自分たちに与えてくれたことに、彼らは感謝したのだ。このチームのためになら戦えると思えたチームだった。

「ありがとう、イングランド。いい夢を見させてもらった」

文=ピーター・ストーントン/Peter Staunton

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